人類学

ベイトソンとマルクス─エラーの産物としての貨幣、あるいは、社会の存立に不可欠なエラー

先日、大学院時代の友人から、「マルクスは、エラーの産物である貨幣を、一掃しようと考えていた」と聞かされました。 恥ずかしながら、マルクスの本を一度も読んだことがない私ですが、貨幣の性質を、クラスとメンバーの秩序を無視する存在であるとマルクス…

ベイトソンについてだらだら語り合う会やりたいな

スポーツの世界の物語性: 「からだ」から表現へ (MyISBN - デザインエッグ社) 作者:矢野徳郎 デザインエッグ社 Amazon 私は以前、ベイトソンの学習理論に関して、ブログに下記の記事を書いた。 2020年頃、この記事からの引用許可を、とある研究者が求めてき…

唾棄すべき輩としての相対主義者─あるいは、怒りの人類学者ボアズの精神について

怒れる人類学者ボアズ 「全ては相対的であり絶対的なものはない」という考え方 「全ては相対的であり絶対的なものはない」という前提を掲げて、「ああ。それはあなたの考え方ですね(私はそれを強く否定はしないが、それに強く賛同もしない)」と言わんばか…

性の営みに見る世界の曖昧さ、あるいは豊かさ

世界各地には様々な恋愛のかたちがあり、人は例えば一夫一婦制だけに基づいて恋愛を経験しているわけではない。 また、性の営みに対する考え方も様々であり、「付き合う」 や「結婚する」や「買春・売春」とは文脈の異なるかたちでの性の営みも存在する。 ◆ …

優しくて凶暴な人類学者との対話

研究に戻るか、それとも、このままIT企業で働き続けるか。 一時期、このような迷いに私はとらわれていた。2006年頃の話である。 ふらふらと、古巣の研究室を訪れた私は、そこに赴任してきたばかりの人類学者に遭遇した。 その、優しくて凶暴な人類学者は次の…

岡田索雲『ようきなやつら』の感想

久々に漫画を購入した。面白かった。 ようきなやつら (webアクションコミックス) 作者:岡田索雲 双葉社 Amazon 『ようきなやつら』における妖怪の描かれ方と、京極夏彦によるそれの類似点 あとがきを読んで、この漫画の出版に京極夏彦が関与していたことが分…

ダブルバインドとは何か?

この記事では、 「ダブルバインドとは何か?」 という疑問に答えます。 答え:ダブルバインドとは人類学者グレゴリー・ベイトソンが提唱した統合失調症(精神分裂症)の説明理論であり、互いに矛盾したメッセージに晒されることです ダブルバインドの正式な…

ブックカバーチャレンジ6日目:秩序の方法

6日目。『秩序の方法』著者:浜本満 秩序の方法―ケニア海岸地方の日常生活における儀礼的実践と語り 作者:浜本 満 メディア: 単行本 著者が私の修士時代の指導教官であり、今でも交流の続いている友人でもあるので、この本について文章を書くと、時を忘れて…

ブックカバーチャレンジ5日目:洗脳原論

5日目。『洗脳原論』著者:苫米地英人 洗脳原論 作者:苫米地 英人 発売日: 2013/01/28 メディア: Kindle版 これも卒論執筆の際に参照した本です。 オウム真理教信者の脱洗脳という国家プロジェクトに関与した脳機能学者・苫米地英人氏による脱洗脳技術(デ…

ブックカバーチャレンジ1日目:精神の生態学

1日目。『精神の生態学』著者:グレゴリー・ベイトソン 精神の生態学 作者:グレゴリー ベイトソン メディア: 単行本 ベイトソンの名前を初めて知ったのは、高校2年の頃だったと思います。家にあった心理学の参考書的な本を通して、でした。 当時、「自分は…

My first visit to Henoko

June 17, 2015 (Wednesday). For the first time I went to Henoko by shuttle bus of the Island-Wide Council. The fare on the shuttle bus is 1000 yen, approximately 10 dollars. This shuttle bus leaves from "ken-chou-mae" bus stop*1 everyday. &…

責任についての今日の思い付き━こんにゃくゼリー訴訟の事例より

知事選以来、「責任」について考えている。 今回は、「こんにゃくゼリー訴訟」に関する資料から得た着想を記しておきたい。 こんにゃくゼリー訴訟の争点 客観的な統計資料からみれば,こんにゃくゼリーの窒息事故は,食物による窒息死亡事故数(平成7年から…

2015年の黄金週間のまとめ

朝8~9時頃に起床してトイレ。洗面所へ移動し、洗顔とうがい。その後、朝食として麦茶とスナックパンbyオキコと納豆を食べ、歯磨き。洗濯物を干し、庭の花木や稲の苗床へ水を遣り、自室でメールチェック。そのまま12時頃まで講義準備を行い、12:30頃に台所…

シーミー

今年もシーミーの季節である。祖母、叔母、父、母、弟、私の、6人で墓参り。識名の墓所の風景は、30年前から変わらない。時が止まったように、同じままだ。 93歳になる祖母を施設からお連れして、車椅子に彼女を乗せたまま、墓へ。時刻はお昼過ぎ。雲一つな…

2015年3月23日から2015年3月28日までの旅の記録

3月下旬に、旅に出ることにしている。 旅といっても、見知らぬ土地に行くのではなく、いつも九州に行っている。特に、北九州には、東日本大震災以降、毎年必ず足を運んでいる。北九州は、父の故郷であり、私が4年間を過ごした大学の所在地であり、私にとって…

責任についての今日の思い付き━「複雑系的責任概念」の着想

自動車事故の責任 自動車事故が発生し、犠牲者が出たとする。 自動車に欠陥が存在していれば、当然のことながら、犠牲者の家族はその責任を、事故を起こした自動車を製造した自動車会社に問うことができる。 しかし、この家族は「自動車会社が自動車なるもの…

自分のポジショナリティを他人に勝手に語られること、決め付けられてしまうことの悲しさ

下記のFBの記事におけるコメント欄でのやり取りに触発され、年末は、ポジショナリティについてずっと考えている。

エラーとして指摘しがたいエラー

たとえば、日本に住む人が何らかの犯罪を犯したことをTVで知った人が、「だから日本人はダメなんだ」と述べ、あたかも日本に住む全ての人がダメな人間であるかように語るのを目の当たりにした時、私は「日本に住む全ての人がダメな人とは限らない!」と反論…

イエスかノーかの単純な問題ではありません

「イエスかノーかの単純な問題ではありません。」 件の自民党からの立候補者が、自身の宣伝資料の中で、述べていた言葉である。 私は、この種の、「物事の良し悪しを判断しないこと」や「曖昧でグレーな態度」を是とするような言説に警戒心を抱く。とりわけ…

つけいる隙

TVで、宮本という名の野球選手が「シーズン中はタコは食べない」と述べていた。理由は「凡打がタコと呼ばれているから」なのだという*1。私はこれを見て、やはり人間の思考というものは面白いと思った。 何が面白いのかというと、タコという音で蛸が想起され…

『セデック・バレ』の感想

セデック・バレは、日本統治下の台湾で、日本人に対して武装蜂起した先住民である、セデック族に関する物語です。 『セデック・バレ』予告編 - YouTube 基本的に、殺し合いで構成されている映画であるため、目を背けたくなる残酷な場面がほとんどです。 しか…

フィールドワークの心得

現在の日本では、「放射線を恐れる必要はない」という信念と、「放射線は恐れてしかるべきものだ」という信念が、激しくせめぎあっている。専門家や研究者や政府の見解が信用できない今、放射線の危険性とそれへの対応の仕方については、一人ひとりが自ら情…

『標的の村』の感想

映画『標的の村』を見た。スクリーンを見上げて涙を流している視聴者が大勢いた。警察に排除される基地反対派の市民の映像。特に高齢者の方が泣きそうな顔をしている時に、涙が感染するような形で、視聴者は涙を流していたように思う。しわの刻まれた、しわ…

ケニアのブラザー、日本の歌に大いに感銘を受ける

昨晩、ケニアから来沖中のチョーニ族のブラザーと、カラオケに行った。 日本の歌に感銘を受けたらしく、私や私の両親が歌った歌の詳細(題名や歌手)を教えてくれと真顔で頼まれた。OK!と快く引き受けたものの、歌のリストを作る作業に4時間もかかってしま…

ケニアのブラザーの来沖

昨晩、チョーニ族のブラザー(チーフの甥)に那覇で会ってきた。 私が人類学の研究者(の卵)としてケニアで妖術の調査をしたのは2002年頃のこと。その後、人類学者になることをあきらめて、東京で会社員になり、原発事故による放射能汚染を恐れて、沖縄に帰…

何か、イデオロギーとは

定期的に、那覇のとある喫茶店で開催される、読書会的な集まりに参加している。 毎回テーマとなる言葉を決めて、それに関する本や資料を参加者が読んだり読まなかったりしつつ、ああでもないこうでもないと語り合い、テーマに対する理解を深めている。 この…

言説(語り)と現実との整合性を検証する方法

物凄く久しぶりの更新です。2013年の4月から、塾の仕事でいっぱいいっぱいになっておりました。小論文講座やセンター現代文講座、センター英語講座や中学生対象の国語講座の準備で忙しくしておりました。この状態に、さらに小論文や志望動機の添削も重なり、…

『シリーズ治験』:プラセボ効果のメカニズム(第4回)

期待仮説 プラセボ効果を説明するための仮説として、第2回では「意味付け仮説」を、第3回では「学習仮説」を概観してきました。今回は「期待仮説」という仮説を見ていきたいと思います。プラセボ効果を説明するための代表的な3つの仮説のうち、これが最後…

『シリーズ治験』:プラセボ効果のメカニズム(第3回)

古典的条件付けに基づいた学習仮説 プラセボ効果のメカニズムを説明するための3つの仮説のうち、前回は「意味付け仮説」を概観しました。今回は「学習仮説」という考え方を見ていきたいと思います。この考え方は、「パブロフの犬」で有名な「古典的条件づけ…

『シリーズ治験』:プラセボ効果のメカニズム(第2回)

プラセボ効果に関する3つの仮説 いよいよ今回から、「プラセボによる鎮静作用」に焦点を絞り、プラセボ効果に関する研究を概観していきます。プラセボ効果に関するこれまでの研究は、以下の3つの仮説に基づいて行われてきたといえます。 「意味付け仮説」 …