新聞の勧誘


さっき読売新聞の勧誘の人が来ていた。

「いりません」と言い、ドアを閉めようとすると、ぐいぐいと体を部屋に入れつつ、勧誘員は「なんだとコラ?」と私にガンをつけた。

「いりません」ともう一度静かに言う。しかし勧誘員は、なおも話を続けようとする。わざと話をきかないふりをしている。私は再び「いりません」と言う。しかし勧誘員は、なおも話を続けようとする。

私は続けさまに3回ほど、「いりません」と言ってみた。

すると「うるさい!」と勧誘員は怒鳴り、次のように言った。

「人の話をちゃんと聞け! さっきから「いりませんいりません」って、なんだその態度は!」

確かにそうだ。私は「いりません」という声を、やや機械的に冷ややかに出しすぎてしまったかもしれない。他者に対して失礼な態度をとってしまったかも知れない。相手が何かを話そうとしているのに、それを押さえ込むような形で、「いりません」という声を出してしまったかもしれない。

私は自分のあり方に少し反省した。また同時に、次のようにも考えた。

近代においては失われつつある市場(いちば)的な交渉の場に参画することを、面倒くさいという理由で拒否してはいけないのではないか? 相手は私にモノを売ろうとしている。だからこそ相手は言葉を駆使して私を捕らえようとしている。その言葉に耳を少しも貸そうとせずに、一方的に相手を自分から遮断してしまうのはいかがなものか?

中途半端にアカデミックな私は上記のようにも考えた。

しかし、勧誘員の「うるさい!」という物言いには正直頭にきた。だから私は次のように切り替えした。

「うるさいって今言いましたね? なんですかその態度は? 「うるさい」って言われてあなたは嬉しいですか?」

勧誘員の目が点になった(ように見えた)。

しかし勧誘員はここで急に私を褒めだした。

「いや! あなたはまじめだ! こんなふうに正面からちゃんと付き合ってくれると嬉しい! あんたはいい人だ!」

非常に胡散臭い。

しかし、この段階までくると、小中生の頃に殴り合いの喧嘩をした後に相手に対して感じたような、謎の親近感を私は、この勧誘員にも感じ始めてしまった。

私はこの勧誘員に人間的な面白さを感じたのである。

「いいえ。あなたこそ面白いです。でも、「うるさい」と言うのは、作戦的にはよくないのではないですか?」

勧誘員は笑いつつ、「ごめん。つい出てしまった。今度から気をつける。」と言う。

「あなたは面白いですが、私は新聞はとりません。」

幾分心がリラックスした私は、口調を柔らかくしながらも、上記のように伝えた。

すると勧誘員は、私が初めて耳にするようなことを言ってきた。

「分かりました。3ヶ月だけとってくれませんか? 代金は私が払いますから。その後ならば解約するのは自由です。私が8月20日までに3ヶ月分の代金を郵便で送りますから、集金は8月25日なので、そのお金で料金を払ってくださいませんか。どうかお願いします。」

代金はつまり、ただということだ。

しかし非常にうさんくさい。

「? こんな風にして契約を結ばせるのは、問題ないんですか?」

と私が聞くと、

「いえ。大丈夫です。どこの新聞社もみんなやってます。ただ、販売所にはこのことは言わないでください。あとでそちらに確認の電話がきます。そのときにこのことは言わないでください。これは最後の手段です。うちらは契約さえとればいいんです。一ヶ月で私は100万は稼げるので、3ヶ月分の料金をこちらが負担しても、むしろ利益が出るんです。」

あまりにもうまい話なので、しばし沈黙してしまった。

「どうか人助けだと思って、とってやってください。うちには娘が二人いまして、上のほうは今度大学受験でして、住んでるとこの家賃は月20万なので、私が働かないといけんのです。どうかお願いします。」

非常にあやしい。

「今、この仕事はほんとうにきついんです。誰もやろうと思わない。職業に貴賎はないっていうのは嘘です。この仕事は人に言えないような仕事です。でも私は生活があるんです。どうか人助けだと思って、3ヶ月だけ取ってください。代金はこちらが払いますから。」

頭をふりつつ、目を悲しそうにつぶりつつ、勧誘員は話す。

文句なくあやしい。

ありがちな流れだ。

しかし、謎の親近感が私を契約に進ませた。

私はこの勧誘員に好感を持ってしまったのである。

契約書にサインをしている私の横で、聞きもしないのに勧誘員は、「自分は今58歳」と教えてくれた。大阪の東成区出身。現在住んでいる場所は、埼玉県の浦和。今回はたまたま足立区のほうへ新聞の勧誘に来ているとのこと。

たぶん騙されているんだろうなーと思いつつも、この勧誘員がとても面白かったので、3ヶ月だけ取ってみることにした。

さて、勧誘員から3か月分のお金は果たして届くのだろうか。

騙されたら騙されたでいいや。

一応、騙されたときの対応の仕方は見つけることができたし。

http://www.nona.dti.ne.jp/~kkash/faq.html#a10

しばらく様子を見てみよう。

投稿者 shige : 2004年07月19日 21:02

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コメント
なんだか知らんけど、今さっき、朝刊が配達されてきた。

朝の4時30分ぐらいに、郵便受けに何か大きなものが投入されたので、その音で目を覚ました。

8月から契約したはずなのに、なんで契約を交わした日の翌日から、新聞が届くのだろう。

不思議に思ったので、契約書の控えに記載されていた販売所にさきほど電話して聞いてみた。

どうやら私の家に8月まで配られる新聞は、サービスということで無料らしい。また、契約期間が始まる前から新聞を配達するという行為は、新聞配達人が私の住所を覚えるためになされることでもあるらしい。

電話に出た販売所のおじさんは、昨日の勧誘員とは違って、話し方は普通だった。

うーん。いったいどうなることやら。

投稿者 shige : 2004年07月20日 04:49

今気付いた。

あの時あの勧誘員は嘘をついていた。

昨日、ドアの向こうから聞こえてきたのは「近所に引っ越してきたので挨拶にあがりました」という声だった。

引越しのご挨拶か?と私は思い、ついうっかりドアを開けてしまったのだった。

私と対面した勧誘員は、しばらく早口でしゃべりつつ、しきりに頭をペコペコ下げた。

勧誘員はずっとベラベラと話すので、私は彼が何を伝えたいのか見当をつけることが全くできなかった。

しかし勧誘員の口から私は、「引越し」と「挨拶」という言葉だけは、かろうじて確認することができた。

ドアを私が開けてからずいぶんと時間が経っても、勧誘員は相変わらずペコペコベラベラする一方だったので、しびれをきらした私が「何の御用でしょうか?」と聞いた途端、勧誘員はおもむろに契約書を胸ポケットから取り出しつつ、「新聞とってくれん?」と言ったのだった。

勧誘員は私にドアを開けさせるために、「引越ししてきた人」を装っていたといえる。

つまり勧誘員は嘘をついていたのだ。

そして私はまんまと騙されたのだ。

現住所は埼玉県の浦和だと自ら述べる勧誘員が、足立区に引っ越してくるわけがない。

私はまんまと騙されて、ドアを開けてしまったのだ。

私は、「普通」の人よりは、嘘にたいして寛容だと思っている。「嘘/本当」という二項対立に基づいて、世界を眺めることを出来るだけやめるように努めている私は、「普通」の人よりも、嘘にこだわらなくなったと自分では思っている。

相手が嘘を言っているかそうでないかについて考えることを、私は放棄しているのである。

しかし、今回、勧誘員は私に嘘をついていた。

いくらなんでも今回ばかりは、「嘘/本当」の二項対立的な視点に基づき、私は怒りを感じてもよいと思う(注1)。

騙しやがって、くそ勧誘員が!

すべからく、とっととクーリングオフしてしまおう。

注1

なんらかの言動を行う他者に、彼もしくは彼女の意図を、私が勝手に読み込むことによって、いままで私は目の前にいる他者を「嘘つき」としてみなしてきた。

相手の「本来の意図というもの」を勝手に読み込んでいるのは、徹底的に私であるにもかかわらず、その読み込まれた「本来の意図というもの」は、有無を言わさず私によってその他者が保有しているもの、とされてきたのである。

迷惑な話だ。

しかし今回は話が違う。

勧誘員は、

1、現住所は埼玉県の浦和

と述べると同時に、

2、私の家の近所(つまり足立区)に最近引っ越してきた

と述べているのである。

これは矛盾ではないか?

今回のケースは、他者に対して私が勝手に読み込む「意図」に照らし合わせて、その他者の言動が「嘘」として言及されるというケースではない。

埼玉県に住んでいると同時に、足立区にも引っ越してきたと述べる彼は、「足立区に引っ越してきた」という嘘をついている。

埼玉に家がある人が、足立区にわざわざ引っ越してくるだろうか?

もしかしたら勧誘員は、最近奥さんとうまくいっていなくて、足立区に一人部屋を借り、別居状態に入ったという可能性もある。

そう考えると、勧誘員は嘘をついていないことになる。

しかし、勧誘員は、別居のことは一切話さなかった。

やはり彼は嘘をついていたのだ。

いや。考えてみると、世間的にはあまり歓迎されない別居という出来事について、人は他人にベラベラとしゃべらないだろう。

私に勧誘員が別居のことについて一言も話さなかったのは、そういう理由からなのかもしれない。

んなわけねーだろ!!

「私は騙されている」と私が考えることは、少しもおかしくないはずだ。

少なくとも、「私の家の近所に引っ越してきた」という言葉は、嘘に違いない。

私はこの一点において、勧誘員を憎んでもいいはずだ。

嘘をつかれたから、私は怒ってもいいはずだ。

だから、早いとこクーリングオフしてしまおう。

投稿者 shige : 2004年07月20日 20:23

しかし私は以前、孤高の人類学者M・ハマから、次のようなコメントをいただいたことがある。

「泥棒や詐欺師が、相手から巻き上げてやろうと思っているとき、その「本音」を相手に伝えることは、当の目的の達成を妨げるわけで、したがってその「本音」を隠して善良な紳士を「演技」することは、当初の目的にかなった、つまり彼の「本音」に忠実な行為だということになる。」[M・ハマ 2004]

つまり、「近所に引っ越してきました」と述べた、あの勧誘員は、「契約を取りたい」という彼自身の「本音」に、最も忠実だったともいえる。

すなわち、勧誘員は「自分の本音にしたがって素直に生きてる」ことになる[ibid]。

私は勧誘員を憎んでもいいのだろうか?

「嘘をつかれた」ということのみを理由にして、他人に腹を立てることはできないのかもしれない。

じゃあこういうのはどうだろう?

結局私は新聞を読まない。第一あまり面白くないし、それに近所の図書館でいやというほど様々な新聞が読めるから。その結果、新聞は部屋にたまっていく。それらを処理するのは面倒。だから契約を解約します。

勧誘員が私に嘘をついたということは、なんの問題でもないのだ。

ズバリ捨てるのが面倒くさい。だから解約。

これでいこう。

参考引用文献

『今日の思い込み』より

[536] Re[534]: 確信について─本音野郎と建前娘の話 2004/01/17 11:56 修正 投稿者:M・ハマ 投稿日:2004/01/23(Fri) 11:26

http://www.kitakyudai.net/~shige/sunbbs/sunbbs.cgi/

投稿者 shige : 2004年07月20日 21:05

「自分の本音にしたがって素直に生きてる」って果たしていいことなのか?

いいのかこれで?

考えれば考えるほど、分からなくなるな。

どう行動したらいいのか、迷う。

相変わらず面白い。

投稿者 shige : 2004年07月20日 21:47

紛いなりにも私は勧誘員と約束を交わしたので、やっぱ、クーリングオフはしないことにする。

勧誘員が約束通りに、3ヶ月分の新聞購読料金を私に送ってきたら、私は彼にあわす顔がない。

勧誘員は間違いなく嘘をついてはいたけれど、その嘘にのって、約束を交わしてしまったのはこの私。

そしてその約束というのが、3ヶ月分の新聞料金を勧誘員が肩代わりしてくれるかわりに、契約書にサインし、3ヶ月間は新聞を購読するというもの。

勧誘員は契約が取れたことで、利益を得る。

私は新聞などたいして読みたくはないのだけど。いわゆる新聞社というエリート組織が、けっこうあこぎな手を使って、購読者を増やしているということを身にしみて理解することができた。

我々にとって非常に馴染み深いものである「新聞」という代物は、下記のような構造をその背後に隠し持っているらしい。

新聞社は販売所に「もっと購読者を増やせ」というプレッシャーをかける。忙しくて暇のない販売所は、なくなく拡張団に頼らざるを得なくなる。拡張団は拡張団で、かなり理不尽な扱いをその組織のメンバーである拡張員(=勧誘員)に強いる。

http://www.nona.dti.ne.jp/~kkash/jittai.html

要するに、諸悪の根源は、新聞社らしいのだ。

購読者を増やすという目的のために、新聞社は、乱暴で粗雑な手段を取ることを躊躇しない柄の悪い人々を利用しているのである。拡張団の存在に関して、新聞社は見てみぬふりをしているらしい。

上記のことが事実だとしたら、新聞社というものは、全然格好よくない組織だ。高学歴の人たちが憧れる職業のひとつであるのに、なんたる醜態だ。

私を「部分的に」騙したあの勧誘員は、販売所とその背後にある新聞社を騙そうとしているともいえる。

そして私はその先棒をかつぐことになる。

あまりいい気持ちはしないが、勧誘員の話に乗ることによって新聞社にいくばくかのダメージを与えることができるような気もする。

もしも勧誘員が私にお金を送ってこなかったらどうしようか。

近くの荒川で一人寂しく元ちとせでも歌おう。

投稿者 shige : 2004年07月21日 20:06

この問題は基地問題とも似ている。

沖縄にある米軍基地を撤去せよという主張がある。

しかし、沖縄の米軍基地は、地域の経済に既に組み込まれている。つまり、基地関係の仕事をすることで生活している沖縄の人々がいるのである。

生きていくための賃金を得るために必要な雇用先のひとつとして、基地は存在しているのである。

基地がなくなると、今まで基地関係の仕事に従事していた人々は路頭に迷う。

まずはそのような人々が困らないように、基地関係の仕事以外の雇用を創出することが先決だろう。

拡張団と密接に結びついている新聞社を非難するのはたやすい。だから拡張団以外の仕事を増やすことが、拡張団という組織を壊滅させる一番の方法なのかもしれない。

しかし、世の中にはやはりひどい奴がいるようだ。

人を脅したり騙したりするのが好きな人もいると考えられる(同じように、人を殺すことが好きだから軍人をしている人もいるかもしれない)。

そういう人については、どのように対処したらいいのだろう。いくら雇用を創出しても、拡張員という仕事が好きな人でなしは、拡張員をやめようとはしないだろう。

最近私は、女子高生コンクリート詰め事件の犯人である男が、出所後再び人に暴力をふるって逮捕されたという記事を週刊文春で目にした。あの橋田氏の友人でもある勝谷誠彦氏による記事だった。「犯人は全然更正していない」ということを、記事は強調していた。

http://www.diary.ne.jp/logdisp.cgi?user=31174&log=20040705

刑務所では、どのような更正プログラムが囚人に対して適用されているのか私は分からない。

しかしそれがうまく働いていないことは分かる。

犯罪者が二度と犯罪を犯せないようにするには、洗脳したほうがてっとりばやいと私は思う。古典的条件付けや、NLP技法などを駆使して、徹底的に犯罪者の認知の様式をいじるのである。

日本の刑務所は、催眠の専門家や洗脳の専門家を招聘して、より実用的な更正プログラムをなぜ作らないのだろう?

話が大きくずれた。

とにかく私はあの勧誘員との約束を守ることにする。

そもそも私はあの勧誘員に親しみを感じたのだった。

一生懸命喋っているように見えた。頑張って生きているように見えた。

そんな人と結んだ約束だからちゃんと守ろうと思う。

投稿者 shige : 2004年07月21日 20:32

そういえばあの勧誘員は、私が切れたら、急に態度を変えて私をほめだした。

もしも私がそこでびびってしまったならば、勧誘員はそこにつけこんで、契約をさせようとしたに違いない。

勧誘員は私の態度をみて周到に作戦を変えている。

脅して契約が取れないなら、今度はほめて契約を取ろうとしていたのだ。

私は勧誘員の策略にはめられている。

人を脅してまで契約を取ろうとする人間に、義理を感じる必要はない。

汚いやつだ。

投稿者 shige : 2004年07月22日 08:21

会社帰りに、クーリングオフの葉書を郵便ポストに入れた。

少し、胸にわだかまりが残る。