敷金返還闘争開始

重森は常々「俺が住んでいる部屋は日当たりが悪い。さらに携帯もつながりにくい。こんな場所*1に更新料を払ってまで住み続けたくない」と考えていた。

そこで重森は思い切って引っ越すことにした。新居は1週間前に見つけた。今住んでいる部屋から300メートルほど離れた場所*2に、来月重森は引っ越す予定である。

さっそく重森は解約の手続きを行った。重森は次のようなメッセージを解約手続き用の書類に記し、そして郵送した。

「敷金からクリーニング代をとるのはやめてください。敷金はすべて返してください。どうぞ宜しくお願い致します。」

2年前に重森が不動産屋と交わした契約書には、「敷金からクリーニング代を徴収する」という特約が記載されている。この記述を見つけた時、「しまった。変な契約結んでるよ俺…。」と、一瞬重森は深く落ち込んだ。

しかし、このような特約を重森は守るつもりはない。

なぜなら、このような契約を消費者に結ばせる不動産屋が、敷金返還をめぐる裁判においてことごとく負けているという事実を、重森は知っているからである*3

重森が解約手続き用の書類を不動産屋に郵送し、既に1週間が経つ。不動産屋からは何のリアクションもない。敷金をめぐる本格的な闘争は、今住んでいる部屋から重森が退去し、敷金が重森の講座に振り込まれる時になって初めて開始されるのであろう。不動産屋によって重森の講座に振り込まれる敷金の額が明らかに少ない場合、重森は不動産屋に乗り込まねばならない*4

敷金からクリーニング代を取ることは、不動産業界において常識化していることであろう。この常識をどのようにして壊そうか?*5 

出来ることなら、不動産屋と話し合うことによって、敷金を取り戻したい。簡易裁判制度を利用することは、最後の手段にとっておこう。むしろ、簡易裁判制度をカードとして使おう。「簡易裁判を起こせば不動産屋は不利になりますよ」と切り出そう。

現時点において重森は、上記のように考えている。

果たしてうまくいくのだろうか?

*1:家賃は月55000円。1階。

*2:家賃は月65000円。1階。日当たり抜群。携帯のつながりOK。Bフレッツ対応。電気温水器付き。荒川の土手が目の前。大好きな図書館のすぐ近く。1階。

*3:参考資料 http://d.hatena.ne.jp/shojisato/20050606 http://mitskan.cocolog-nifty.com/shikikin/ 

*4:ヤクザみたいな人が出てきても臆することなく交渉しなければならない。もう27歳なのだから。

*5:修士の学生の頃、重森は彼がお世話になった大家さん(85歳)と、敷金をめぐって争った(交渉した)ことがある。ありったけの資料を大家さんに提示し、敷金からクリーニング代を取ることには何の正当性もないことを当時の重森は主張し続けた。しかし大家さんは敷金からクリーニング代を取ることを当たり前のことと捉え、一歩も譲らなかった。大家さんには全く悪気がなかったのである。大家さんと重森は、両者とも自らの正しさを主張するばかりで、一向に埒があかない。そこで重森は「痛み分け」という手段を取った。クリーニング代の半分を負担するから、残りのクリーニング代を負担してくれと重森は大家さんにお願いしたのである。このやり方は当時の重森が考え出した最良の方法であった。重森が風邪を引いて寝込んでいる時にミカンをくれたり、日頃から笑顔で重森と世間話を交わしてくれた大家さん。彼女に対して敷金の返還を要求することに、重森は実は大きな抵抗を感じていた。なによりも重森は大家さんを人間として慕っていたのである。だから、そのままうやむやにして敷金を、全部大家さんにあげちゃおうかと重森は考えるときもあった。しかし、重森はなかば義務的に、大家さんを切り刻むことを選んだ。当惑した顔をしつつ大家さんは、しぶしぶ敷金を半分重森に返した。「ニコニコ笑顔のみで他者と接しているだけでは駄目だ…。お互いに傷つけ合わなければならない…。お互いに搾取し合わなければならない…。」このようなことをお経のようにブツブツとつぶやきながら重森は大家さんと対峙した。果たして重森の行為は正しかったのであろうか? きっと重森には自信はない。しかし、闘争(交渉)を避けることは逃げであり、不健康で卑怯なことのように当時の重森には感じられていた。ここでの重森の行為─敷金返還闘争─は、「金がもったいないから返せ!」という類のケチくさい精神に起因するものではない。非常に義務的でオブセッシブなものだ。重森はできることなら返金闘争などしたくない。したくはないけれど(避けて通りたいのだけど)、することを、重森は自らに課しているのである。重森は自分自身をヘタレだと捉えている。そのため、出来るだけ自分を闘争(交渉)の場に持っていこうとしているのかもしれない。今回の敷金返還闘争も、重森は自分の成長の為に、なかば強迫的に行っているのであろう。