三線早足歩行
空が晴れていた。風も心地よい。
三線を弾きたくなったので、荒川に出た。
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休日の荒川は人で溢れている。三線を弾くと、きっと人が寄ってくるだろう。
三線を弾きつつ歌を歌い、一人でトランスに至ることが好きな私は、観客を必要としない。むしろ観客は邪魔である。トランス儀式中は、そっとしておいて欲しいのだ。
というわけで、恥ずかしがり屋の私は、人のいない場所を求めて、荒川上流を目指した。
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15時ぐらいに家を出た。荒川をひたすら遡る。しかし、いくら歩いても人はいる。春の陽気に誘われて、一斉に人が荒川へ押し寄せているようだ。三線の入った黒いケースを、左手右手と交互に持ち替えながら、ひたすら歩く。
気がつくと、家から5キロぐらい離れた場所まで来てしまった。すでに時計の針は16時をさしている。少し肌寒い。
「どこまで行っても変わらない」
そう思った私は、もと来た道を引き返した。
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再び1時間ほどかけて、家の近くまで戻る。時刻は17時近くになっていた。
自宅近くまで戻る途中、土手の緑にかがみこんで何かを採集している人たちを見かけた。
気になったので、思い切って話しかけてみる。
ビニール袋を片手に持ち、土手にしゃがみこんでいた彼らは、「つくし」や「のびろ」という植物について、その見つけ方と料理の仕方を私に教えてくれた。
食い物がただで手に入るならば、ゲットしない手はない。
今度「つくし」と「のびろ」を、私も採集してみよう。
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往復で10キロぐらい歩いた。そして、三線は弾けずじまいだった。
結局、私は三線持って、胸を張りつつ早足で、10キロ歩いたのであった。
シャワーを浴びているとき、背筋と胸に、筋肉が付き始めていることを実感した。