ひどい

「黒魔術で殺す」売春強要 タイ人の女ら3人再逮捕

インドネシア出身の女性二人を「呪術で殺すぞ」と脅し、売春をさせていたタイ人に関する記事。

私はこの記事を目にしたとき、次の2点において、怒りを覚えた。

1、インドネシア人女性が売春を強制されていたこと。
2、インドネシア人女性が「呪術で殺すぞ」と脅されていたこと。

以下、上記の2点それぞれについて、さらに掘り下げて考えてみる。

・1について

売春を強制された女性たちは、インドネシア山間部の貧しい田舎出身ではないだろうか? 親や家族の生活費を稼ぐために、自ら日本で売春婦として働くことを選んだのだろうか? 

いや。そうであるならば、わざわざタイ人は「呪術で殺すぞ」と脅す必要はないだろう。 

インドネシア人女性たちはタイ人ブローカーに騙されて、日本に連れてこられたのではないだろうか? 売春するなんて話は聞いていない!と抗議したからこそ、タイ人ブローカーは「売春しないと呪術で殺すぞ」と脅したのではないか?

・2について

タイ人ブローカーに「呪術で殺すぞ」と脅されたとき、インドネシア人女性らが想起したのは、おそらくilmu hitamではないだろうか。

ブラックマジック(黒魔術)は、インドネシア語でilmu hitamという。それは人々に災いをもたらす「体系的な知識と技術」のことを指し、インドネシアの人々の中には、これを真に恐れている人たちがいる。

私が気に入らないのは、タイ人ブローカーによって、インドネシア人女性らの世界観において確固たる存在感を得ているilmu hitamのリアルさが、まるでunixを操る際にunixのコマンドを打ってみせるかのごとく、首尾よく利用されていることである。

タイ人プローカーは、呪術の効果を真に受けていないのではないか? 「呪術で殺すぞ」と脅すタイ人プローカーは、実は呪術に効果をまったく認めておらず、インドネシア人女性らが本気で脅えるのをいいことに、「呪術で殺すぞ」という言葉を単に吐いているだけではないだろうか? インドネシア人女性らを自分の都合のいいように拘束したいがために、「呪術で殺すぞ」というセリフを、タイ人ブローカーは述べているのではないか?

もしもそうであるならば、私はますます怒りにかられる。

タイ人ブローカーにとっては全くリアルでないilmu hitamという存在が、それをリアルなものとして捉えざるをえないインドネシア人女性らを拘束するために、タイ人ブローカーによってまんまと利用されているならば、許せない。

まるで、「好きだよ。愛しているよ。」と、体目当ての相手にまことしやかに語ってみせるナンパ師を見ているようだ。

私はこのようなナンパ師を最も軽蔑する。

もちろん、「好きだよ。愛しているよ。」というセリフを述べるナンパ師が、体目当て*1でそう述べているのかどうかを判断する確実な方法がないことは、十分承知している。

語られた内容がすべてであり、我々は過剰にその内容を疑うべきではない。

「素敵ですね。」と、自分が本当に素敵だと感じた人に言ったとき、「嘘でしょう? 本当は素敵なんて思ってないでしょ? 社交辞令でしょう?」と返されたら、とても悲しい。

「もしも私が本心から「素敵ですね。」と言っていたとしても、あなたは「社交辞令」としてこのセリフを疑うことができる。つまりあなたは、なんでもどんなセリフも「社交辞令」として疑うことができる。あなたは、ある特定のセリフが社交辞令かどうかを判別する方法を知っているのですか? 疑うのは勝手ですが、疑いすぎるのは損ではないですか?」

このように私は切り返したくなる。少々疑い深い、本当に私が素敵だと感じた人に向かって。

語られた内容がすべてであり、我々は過剰にその内容を疑うべきではない。

「本音/建前」「演技/素」の二項対立にかつては陥りがちだった私だが、今はこのように考える。

しかしどこかで私は、そのセリフを述べる人のリアルが、そのセリフと合致することを願っている。

だから、もしもタイ人プローカーが、呪術にリアリティを感じていなくせに「呪術で殺すぞ」とインドネシア人女性を脅していたのならば、売春強要と脅迫を行ったという点だけなく、「自分自身にとってはまったくリアルでない対象について、あたかもその対象にリアルさを感じているかのようにして、ある特定のセリフを首尾よく利用した」という点で、怒りを覚える。

つまり私は、「本音/建前」「演技/素」の二項対立から、依然として解放されていない。

三つ子の魂百まで、なのか。

miirakansuへのお願い

miirakansu様

はてなの調子が悪いらしく、コメントの書き込みがうまくいかないので、本来はコメント欄に載せるべきmiirakansuへの連絡事項を、エントリーの本文に書かせていただきます。


【miirakansuへのお願い】

すいません。miirakansuにさらにお願いが。。。

■miirakansuの課題の追加

1、「「二項対立」は選択不能な認識の前提になっている」とは、一体どういうことか?
2、「「二項対立」は選択不能な認識の前提になっている」という主張を、裏付ける根拠を提出することは可能か? もしも可能ならば、その根拠とはどのようなものか?

miirakansuには、上記の2つの課題を引き受けていただきましたが、追加課題として、下記の課題も引き受けていただけないでしょうか?

3、「タイ人ブローカーは呪術を信じていなかった」とmiirakansuが決め付けてしまったのはどうしてか? 「演技/素」「本音/建前」の二項対立という用語と関連付けて説明せよ。ただし、「演技/素」「本音/建前」の二項対立という用語は用いるべきではないとmiirakansuが判断するならば、その理由を示したうえで、上記の設問に答えよ。


私と同じ思い込みをmiirakansuは行っていたので、ぜひとも3の質問に答えて欲しいのです。「論理的に考えてなかったから」「読解能力が低いから」「野矢茂樹の『論理トレーニング101題』を持ってないから」という解答はNGってことでお願いします!!

miirakansu wrote 2006/04/20 02:19
>「二項対立」は、物事への疑いを生じさせるものではあっても、思い込みを強いるものではありません。

上記のように述べるmiirakansuが、どのようにして「タイ人ブローカーは呪術を信じていない」という思い込みをするに至ったのか、非常に気になるので、どうぞ宜しくお願いします☆

*1:もちろん、「体目当てであること」自体も非難されるべきことではないと私は思う。