重森による「幽霊の不在証明」

あれはいつ頃だっただろうか。沖縄出身者同士で飲んでいたときの話だ。

ある人物が、「海で溺死した女の幽霊が出るので、ユタに頼んでお払いしてもらうと、幽霊が出なくなった」という話を恐る恐る話した。

私はその人物に、次のように言った。

「幽霊などいない。幽霊などいるはずがない。ユタは嘘つきだ*1。あるいは勘違いしているだけだ*2。」

その人物は目をむいて言い返した。

「嘘じゃない!本当にやばかったんだって!」

頭にきて私はどなった。

「幽霊などいるわけないだろう!! 戦争で何万人も人が殺されたのに、なぜ幽霊は出てこないのだ? なぜ幽霊は、自分を殺した相手をとり殺そうとしない? 自分を殺した相手をさがしている幽霊はなぜ出てこない? 海で死んだ女でさえ幽霊になって見ず知らずの人間の前に出てくるならば、天皇だとか小渕だとか小泉だとかブッシュだとかが沖縄に来た途端、沖縄中の幽霊が溢れ出してもおかしくないだろう? 恨みを晴らすために。俺が幽霊だったら迷わず奴らの命を狙うぞ。だけどそんな話は全然聞かない。そんな話を一切聞くことがないということは、幽霊などいないということだ。違うか? それとも、戦争で殺された人たちは、既に全員成仏したとでもいうのか? ふざけるな。死んでも死にきれないと思うぞ。」

私がいきなり怒鳴りだしたので、その人物は驚いた顔をして、黙ってしまった。

*1:ここでの「嘘つき」とは、「物理的に存在しないものをあたかも物理的に存在するものであるかのように話している」という意味での「嘘つき」である。「自分のリアルとは異なることを言う」という意味や、「約束を破る」という意味での「嘘つき」ではない。

*2:ここでの「勘違い」とは、「普遍的に物理的に実在している幽霊というものが見えているのではなく、彼らの脳では幽霊なるものが見えているだけ」という意味である。「勘違い」という言葉で私は、「外界に幽霊なる物体があるのではなく、彼らの脳が幽霊を存在させている。彼らにとって幽霊はリアルかもしれないが、幽霊なるものが普遍的に物理的に実在するということではない。」とその人物に言いたかった。