満員電車に乗るたびに

私は満員電車が嫌いだ。しかし3年も乗り続けていると、単に嫌いというわけではなくなった。

満員電車に乗るたびに浮かぶ疑問は、「なぜこんなにも人が次から次へと乗ってくるのか」という疑問だ。おそらく、会社の始業時間が9時に設定されていることが、満員電車が成立する要因の一つだと考えられる。8時過ぎの車両が一番込むのは、そのような理由からだろう。

駅員は、その事情を知っているからか、無常な人数制限をせずに、ひたすら客を車両に押し込んであげようとしているように思える。

人々は凶悪で邪悪で邪だから、次から次へ電車に乗り込むのではない。事情があるのだ。

一昨日の電車では、前後左右から人に押しつぶされた女性が気絶して、車両の床に座り込んでしまった。しかし、周囲の皆でその女性を引き上げて、彼女が降りたがっていた駅で彼女が降りられるよう促した。客同士が喧嘩を始めてしまい、車両全体が殺伐とした雰囲気に陥ることも多く、黙って見ていれば満員電車はさながら戦場のようだが、けしてそれだけのものではない。

多くの人は、黙って、なるべく目が合わないように、申し訳なさそうに、電車内でじっとしている。家や会社では皆、家族や仲間と笑顔で会話したりするのだろう。彼らは他人をいたずらに不快にする悪い人ではないのだ。しかし、私はしっかりと、他人を押しのけて己のスペースを確保するのも忘れない。

聞けば丸の内線では、車両の人数制限が行われているという。その基準はよく分からないが、一定の人数が車両を満たすと、駅員がロープでドア付近を立ち入り禁止にするのだそうだ。

私が利用する日比谷線では、このような人数制限はまだ行われていない。しばらくは、満員電車に遭遇してしまった場合、これまで同様私は、以下の方法で満員電車に対処しなければならない。私は、いつも、ちゃんと列に並び、順番を守って電車に乗る。たとえ遅刻しそうでも、規則は守る。その上で、他人を押しのける。あるいは出し抜く。具体的には、以下の対処法を私は使用する。

  1. 列に並ばずに横から入ってくる人の顔をちゃんと見る。威圧的に見るのではなく、驚いた顔をして目を見開き、相手の目を直視する。すると相手の動きは止まる。ヤクザっぽい人でも止まる。ルール違反的なことをする人には、やはりどこかで「自分は悪いことをしている」という意識があるようだ。
  2. 車両に入ったならば、ドアに背を向けずに、ドアから入ってくる人の目をちゃんと見るようにする。ドアに背を向けてしまうと、容赦なく人が次々に背中にアタックをしかけてくる。しかし顔の見える人間には、アタックはしにくいようだ。
  3. 背を向けてドアから入ってくる人の背中に、いち早く肘やカバンを「優しく」当てることにより、「あ。背中が人に触れた。これ以上は車両内に進めないのかも。」と思わせてその動きを止める。面白いほど動きが止まるので、ちょっと楽しい。
  4. 毎日、腕立てと腹筋とスクワットをし、押し寄せる人並みに体重をかけて、車両への過度な進入・進行を食い止められるようにする。具体的には、膝を落とし、棒立ちにならないようにし、押し寄せる人間の圧力に耐える。手を使わず足腰だけで行う相撲を実践する。

以下、問題があるため、試みることができていない対処法を列挙。

  1. ドア付近で、ドアが閉まるまで、ひたすらシャドーボクシングを行い、人が入れないようにする。→ 当たったら痛そうなパンチを3分ぐらい連続で繰り出すのはつらいので×。ていうかパンチが当たって怪我させたらまずいので×。
  2. 密着すると怪我をするような、針の付いたパンクロックな服を装備する。→ 本当に怪我されたらマズイので×。
  3. 非常に臭いニオイをなんとかして撒き散らし、人が近づかないようにする。 → 異臭騒ぎで逮捕されたら嫌なのでこれも×。
  4. 駅員を買収し、個人的に人数制限をしてもらう。→ そんなにお金ないので×。
  5. 日本企業の始業時間をなくす。全部フレックス制にするよう労働基準局に圧力をかける。→ 結局それでも午前中は込むことには変わりはないので、あまりよい方法ではない。×。
  6. サングラスをかけ、白マスクをつけ、黒字で山○組と書かれた白地のコートを着て、周囲を威圧。→ 警察に捕まるか、本物の山○組の人に怒られるので×。
  7. 駅のホームで出会う人々の個人情報をなんとかして取得し、理不尽なアタックを仕掛けられた際に「あなたの会社の上司に言いつけるぞ。人事に報告するぞ。」と脅す。→ 個人情報の取得が難しいので×。
  8. 事前に、駅のホームで出会う人々と仲良くなっておき、お互いが顔の見える友達になっていれば、自然に譲り合いが発生する。あるいは、たとえ満員でも、友達なので、そんなに気にならない。→ そんなに他人と仲良くなるのは得意ではない。×。
  9. 電車の発車時刻を統括するメインコンピュータをハックし、駅内の時刻表や時計をすべて狂わせて、人々を惑わす。→ ハック自体が難しいだけでなく、成功しても捕まるから×。そもそも電車がストップするから×。
  10. 会社をなくす。→ ×。
  11. 瞬間移動できるようにする。→ ×。

他人にイライラさせられたくないし、むやみに他人を憎みたくないので、最も良い対処法は、上記のような対処法の候補について考え続けることにより、その場をやりすごすこともかもしれない。