台風という概念がない頃の、遠い島の昔のお話

今日は納期でした。

納期には解析結果を納品することになっています。さきほどそれを無事納品することができました。エクセルのドキュメントをZip形式に圧縮し、確かにメールに添付して、ついさっき先方宛てに送付致しました。「送信」ボタンをクリックした感触が、まだ右手人差し指に残っています。

とある新薬承認申請プロジェクトを統括する身である重森は、納期を無事に済ますことができ、現在かなりホッとしております*1

そのためか、体調がいきなり悪くなってしまいました。お腹がゴロゴロいっております。さらに、クシャミや寒気などもあります。

これは、「気が緩んだ」という言い方で表現できるような状態だといえます。すなわち、「ちゃんと今日までに納品するのだ!」という目標を意識することによって保たれていた緊張状態が急に緩和され、脳内物質だとか免疫系に関する神経系だとかが何らかの影響をこうむってしまい、風邪を引いてしまった状態といえます。要するに重森は、「気の緩みにより風邪を引いてしまった」ようです。

しかし果たして、「納期を終えた途端に気が緩んで体調不良になった。」という言い方は、重森の現状の適切な描写といえるのでしょうか? 

よく考えてみると、次のように把握することも可能であるように思えます。

今まで納期のみに集中させられていた重森の全意識が、納期を終えたことによりそれから解放され、大分以前からガタのきていた自分自身の身体にやっと意識を向けることができる状態となり、取りも直さずそのことが、「納期を終えた途端に気が緩んで体調不良になった。」という重森の判断を初めて可能にしている。

つまり、「ずっと以前から重森はお腹ゴロゴロで風邪気味だったのにもかかわらず、それに気付いたのは納期の終わった現在である」という可能性があります。

実際どうなのでしょうか。

「納期を終えた途端に気が緩んで体調不良になった。」という仮説と、「もともと体調不良であったにもかかわらず、「納期を終えた途端に気が緩んで体調不良になった。」と、納期後に初めて意識できるようになった」という仮説。どちらが重森の現状の適切な描写なのでしょうか。

上記の検討を行うには、あらかじめ納期前後における重森の白血球数等の臨床検査値や、呼吸数や体温等のバイタルサインの検査を実施し、それらを比較する必要があると思われます。おそらく検定手法としては「対応のあるt検定」を用いるのがよいかと考えられます。

ん? 果たしてそうだろうか。被験者が一人しかいない場合に、検定を行うことはできるのだろうか?

それでは単に比較すればよいのだろうか。納期前の検査値と、納期後の検査値から算出した変化量を見ればいいのだろうか。

うーんうーん。

よし。来週会社で、統計が三度の飯より大好きな統計フェチのHさんに聞いてみよう!

しかし、です。

そもそも意識の向く先がどうのこうのという話は余計で、「風邪」とか「体調不良」とかいう言葉を使って思考することこそが問題なのかなとも思います。

その古老によれば、「白人が島に来る以前は、台風は来なかった」そうである。白人が島に来る以前、島には時折大きな風が吹いて、椰子の木や家屋等を吹き飛ばしてしまうことはあった。しかし、台風は、一度も来たことがなかったのだという。

台風という概念がない頃の、遠い島の昔のお話。*2

*1:とはいえ実は来週も納期です。そして来月にも納期があります。数回に分けて納品を行っているため、気が抜けません。

*2:大学時代の指導教官からの伝聞。