人類館の番組を見る

無事、金曜に納品を終えて、終電で帰宅。

何度も経験してはいるものの、解析結果の送信時にはいつも緊張する。

その翌日、またまた某W大学へ。

沖縄テレビの知人から「人類館」に関する番組のビデオテープを手に入れたので見に来ませんか?」という連絡を編集者から頂く。つくづく編集者は凄いと思う。知識量だけでなく、行動力もあり、そして広範囲に渡る人的ネットワークに恵まれている。

人類館に関するビデオを約10名くらいで鑑賞し、その後ディスカッションを行う。私は次のような発言を行った。

  1. 「沖縄出身者に対する差別が今でも存在していると番組では語られていたが、それは具体的にはどのようなものなのか?*1
  2. 「どうして、人類館の上演に関して、大阪と沖縄では温度差があるのか? どうして前者は後者よりも人類館の上演に積極的なのだろうか? もしかしたら大阪の沖縄2世・3世の方々は、過剰に、沖縄人になろうとしているのではないか? 中途半端な沖縄人として自分自身を認識しているからこそ、過剰に、本物の沖縄人になろうとしているのではないか? その強迫的な思いが、人類館に対する強い関心を引き起こしているのではないか?*2

この日、体調不良により遠隔地からスカイプでディカッションに参加していた人類学者が、私の発言を取り上げてくれた。

非常に嬉しい。相手にされることは非常に嬉しい。

しかし、その流れでさらに私は「今自分が考えていること」を発言することを促され、あまり整理されていないままの「今自分が考えていること」を吐露するに至った。例えば、次のような発言がそうである。

「沖縄人になりたいのは私です。大阪の沖縄人2世・3世の方々についてさきほど私が行った発言は、そのまま私自身にあてはまります。私は、自分自身を、大阪の沖縄人2世・3世の方々に投影しただけといえます。」

恥ずかしい。沖縄について語るとき、私はついつい自分自身について語ってしまう。非常に恥ずかしい。

また、アットワークスから出版されている『人類館─封印された扉─』の内容に関して、事実誤認的な発言をしてしまったことも、恥ずべき行動であった。

沖縄的な言動を禁止*3されていた祖母や祖父の世代にとって、大阪で開催されているエイサーの取り組みは、踊ること自体が抵抗そのものであるような、涙抜きには従事できないような行為であること。それなのに本土の人間たちは、エイサーを楽しむことだけを目的にしてエイサーに参加してくる。見世物として消費、あるいはエイサーの技術の習得だけを目的にして、エイサーの活動に入り込んでくる。このことが、この本に記載されていると、ディスカッションの場で私は発言した。

しかし、家に帰って調べてみると、そのような記述は見つからなかった*4。おそらく、別の沖縄関連の本の内容と混同してしまっているようである*5。恥ずかしい。

ディスカッション後、様々な沖縄研究者と知り合い、情報交換をする。

平和学習や壕の研究をしている方と、戦争の怖さを修学旅行生に伝える技術について意見交換する。

コザ出身の沖縄研究者から、沖縄の言論状況は閉鎖的で画一化されていて息苦しいという話を聞く。

明治学院大学の先生から、「メッセージを伝える技術を高めなければ沖縄のことを知ってもらうことは難しい。その点、カクマクシャカという沖縄出身のラッパーは一見に値する。あれは強烈だ。インパクトがある。」という情報をもらう。

カクマクシャカ。名前は聞いたことがある。しかしそのパフォーマンスを間近で見たことは一度もない。調べてみると、カクマクシャカは来週上野公園のイベントに出演することが分かった。来週の予定はこれで決まりだ。上野公園は近所なので見に行こうと思う。

検索したら「民のドミノ」という曲をyoutubeに見つけることができた。めちゃめちゃ早口なので何を言っているのかちょっと聞き取りにくいが、鬼気迫るような何かがある。

それにしても、自己紹介の時にどのように自分について語ればいいのかいつも迷う。「○○大学の〜〜です。」と簡潔に説明できたあの頃が懐かしい。会社名を告げても、よほど知名度がない限り、なんの紹介にもならないので、現在は次のようなフレーズを組み合わせて、自己紹介を行っている。「会社員」「沖縄出身」「文化人類学」「重森」「呪術研究者」「プラセボ研究者」「18年間沖縄で過ごし、大学入学とともに北九州に行き、東京の大学院をでました。」 

上記のフレーズを今回は、適当に以下のようにミックスしてみた。

「こんにちは。はじめまして。重森と申します。会社員です。沖縄出身です。文化人類学を専攻し、呪いの研究をしていました。」

口頭での自己紹介はこれで概ね問題ないと思っている。問題は名刺交換である。

多くの場合、私が差し出す名刺を受け取った人は、しばらくの間、硬直する。私が渡す名刺には、「統計解析」という文字が刻印されているからである。

なので私は、次のように補足することにしている。

「現在は、製薬関連企業にて、統計学に特化したプログラミング言語を用いて治験データを解析し、新薬の効果を判定しています。プラセボ効果がなぜ起きるのかについて考えつつ、いつも仕事しています。現在の仕事は、呪術の研究とつながっているのでそれなりに楽しいです。今後も呪術やプラセボ効果について勝手に探求していきたいと思っています。あと、沖縄は、大嫌いだけれども、大好きな場所で、気が付けば沖縄について考えてしまうことが多いので、今後も沖縄関連のイベントには顔を出させていただきたいと考えております。どうぞ宜しくお願い致します。」

*1:『人類館─封印された扉─』(p-206〜p-209)には、「おまえエイサーをやってるから琉球人だろ」という発言をした滋賀県の小学生に関する事例が掲載されている。はたしてこれは差別発言といえるのだろうか? 「おまえ色が黒いからギャルだろう」「おまえゲームばかりしているからゲームオタクだろう」「おまえスーツを着ているからサラリーマンだろう」「おまえ背が小さいから小学生だろう」」という発言もすべて差別発言となるのだろうか? どのような発言が差別発言に該当するのか、いまいち私は分からない。私は沖縄で「おまえはいるしるー(色白)だからナイチャーだろう」とよく言われることがある。このとき私は「差別されている」のだろうか? 「差別されている」ような気もする。しかし、単に「区別・識別されている」ともいえそうである。そういえば昔、小学生の頃、大人や同級生の男子や女子から「おまえは髪が長いから女だろう」と言われたことが多々あった。「男か女か分からない」という自分の外観を好ましく思っていた当時の私は、このように言われることに喜びを感じていた。その発言を受けて、「男です。」と相手に答えたときに、「本当?女じゃないの?」という反応が返ってくると益々面白かった。この、変態的な私を喜ばしめた「おまえは髪が長いから女だろう」という発言も、差別発言にあたるのだろうか? よく言われるように、「あるなんらかの発言が差別発言にあたるかどうかは、受け手と、その発言がなされた文脈による」ということなのだろうか? 差別発言かどうかを判断する基準は、発言の意味を解釈する受け手のみが設定できるものであるならば、差別発言として捉えられるような発言を行ってしまった人は、直ちに謝罪すべきである。という話になるのだろうか? いや。もっと問題は複雑であるように思える。「おまえエイサーをやってるから琉球人だろ」という発言における「琉球人」。発言の受け手が、この「琉球人」という言葉に負のイメージを抱いている場合、「おまえエイサーをやってるから琉球人だろ」という発言は、差別発言になると考えられる。しかし、これでは「琉球人」に負のイメージが付与されていることを自ら認めてしまっていることにならないか? 「琉球人」と言われて「その通りだ。エイサーやっている私はまさしく「琉球人」だ。」と胸を張れたら、何も問題ないのに。「琉球人」という言葉で負のイメージを喚起させられている時点で、発言の受け手は、負のイメージを「琉球人」という言葉に付与することに同意してしまってはいないか? 相手と共犯関係になっていないか? 相手と同じ土俵に乗ってしまってはいないか? そしてこのことは最も悲しいことではないか? 「おまえエイサーをやってるから琉球人だろ」という発言を差別発言として認識してしまうこと自体が、相手の術中に嵌ってしまう悲しい事態ではないか? 「琉球人だろ」という発言にではなく、「お前は「琉球人」だから、立ち入り禁止」という形で、「琉球人」の有様を固定し、そしてその「琉球人」の行動を制限するような発言にこそ、反発すべきではないだろうか? このような形式の発言のみに対して、「「琉球人」に勝手に負のイメージを付与するんじゃねーよ」と怒ればいいのではないか?

*2:仮に、本土において、沖縄人に対する差別発言というものがなされているのであれば、大阪の沖縄2世・3世が、人類館の上演に積極的になることは至極当たり前の話といえる。なぜなら、実際に差別されているのであるから。差別発言を、沖縄人が沖縄で向けられることは、まずないだろう。沖縄人に対する差別発言は、必ず本土で受けるものであろう。もしもこの仮説が正しければ、私の主張は的外れということになる。

*3:沖縄口の使用の禁止、エイサーの禁止等。

*4:非常に近い内容の記述を、p-194〜p-197、p-206〜p-207、p-362に見つけることができる。しかしこれらの記述は、ディスカッションの場で私が想起していた文章とはやや異なる。

*5:『沖縄イメージの誕生』もしくは『沖縄に立ちすくむ』のどちらかに掲載されていたような気がする…。