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交通整理おじさん

家の近くに米屋がある。その米屋のおじさんが、店の前の十字路を、交通整理している姿をみかけることがある。小さな十字路である。道の幅は3メートルぐらいだろうか。交通整理をするほどでもないという印象を受ける。

しかし、交通整理をするおじさんの気迫は、いつも尋常ではない。鬼気迫る調子で狂ったようにおじさんは交通整理を行う。おじさんはサングラスをかけている。そして大声で何事かを怒鳴りながら、黄色い旗を適宜用いて、車を止める。

今まで私は、おじさんが何を喋っているのか、聞き取ることができていなかった。幸運なことに、次のようなセリフを大声で喋りつつ、狂ったように交通整理をしているおじさんに、最近遭遇することができた。

「いつ何が起こるか分からない!あのときのことを俺は忘れない!飛び出した子どもが事故に遭い、母親は泣き叫んだ!何が起こるか分からない!」

このようなセリフを演説のように大声で喋りながら、おじさんは交通整理をしていた。今までは、「なんか変な人がいるな。。係わり合うと面倒なことになりそうだな。。」と若干警戒しつつ、米屋の前の十字路を歩いていた私であるが、おじさんの自分語りを耳にしたために、おじさんが狂ったように店の前で交通整理を行っている理由をなんとなく了解できた気分になった。

おじさんの交通整理にかける異常な情熱と、交通整理中のおじさんのセリフに基づいた推測なのであるが、かつて、米屋の前で、事故が起きたことがあるのではないだろうか? そしておじさんはその時の一部始終を、目撃してしまったのではないだろうか。そのあまりの悲惨さを取り払うことができなくて、おじさんは、狂ったように交通整理をしているのではないだろうか?

いずれにせよ、なにか壮絶な体験が、おじさんの行動を動機付けているとしか思えない。

車は、おじさんが醸し出すあまりの迫力に止まらざるを得ない。おじさんは、人が20メートルくらい前から歩いてくるのを確認するやいなや、大声で怒鳴りながら車を止めにかかる。子ども、女子高生、カップル、おばさん、年寄り、重森。とにかく人がおじさんの視野に入った途端、道幅3メートルに満たない十字路の真ん中におじさんは仁王立ちし、黄色い旗を水平に維持する。そして大声で、「どうぞ!お通りください!」と心持ち前傾姿勢のまま通行人に告げる。

芝居がかっていて、あまりに大仰なので、最初は「目立ちたがり屋の寂しい人」だとばかり思っていた。注目されたくてわざと妙な調子で交通整理をしているものとばかり思っていた。

しかし、どうやら違うようだ。

今度、おじさんに、交通整理を行う理由を尋ねてみたいと思う。