アルミ缶の買取価格変動メカニズム

主にネット上におけるリソースを参照し、アルミ缶の買取価格を左右する要因を調査した結果、私は以下の事柄を、より詳細に理解する必要があるということを実感した。

  • (世界)不況のメカニズム

アルミ缶の買取価格の変動に関する言説の多くは、「(世界)不況」という言葉とともに語られる。このことはつまり、アルミ缶の買取価格を把握するためには、「(世界)不況」のメカニズムの理解が必要不可欠であることを示唆する。

私は、私が住む「社会」の仕組み自体にあまり詳しくない。特に、この「社会」における「お金」の流れについて、私はかなり無知である。

以下より、アルミ缶の買取価格変動メカニズムに関する現時点における私の知識を記す。内容が、非常に断片的でまとまりのないものになってしまっていることは、「(世界)不況」のメカニズム、すなわち、この「社会」における「お金」の循環、「お金」とそれと交換される物資との関連を、私が十分に把握できていないことに起因する。

アルミ缶の買取価格の変動メカニズム

アルミ缶の収集によって生計を立てている野宿者の方々にとって、アルミ缶の買取価格の下落は生死に関わる重大な問題である。アルミ缶の収集は手間がかかるうえに、一度に大量のアルミ缶を運搬しなければならないことから、大変な重労働といえる(詳細は下記を参照のこと)。

野宿生活者が支えるリサイクル最前線

しかし、野宿者の方々が汗水垂らして集めたアルミ缶の価格は容易に変動しやすい。下記の記事によれば、2008年夏の時点では1キロ170円であったアルミ缶の買取価格が、2009年2月の時点では、1キロ40円にまで下落したという。

不況にのまれるホームレス 雑誌減り…空き缶暴落「並び」もない (1/3ページ)
不況にのまれるホームレス 雑誌減り…空き缶暴落「並び」もない (2/3ページ)
不況にのまれるホームレス 雑誌減り…空き缶暴落「並び」もない (3/3ページ)

野宿者の方々にとっての死活問題であるアルミ缶の買取価格は、どのようなメカニズムのもとで変動しているのだろうか? 上記の記事では、「世界不況」と「北京五輪の終了」が要因として挙げられている。また、下記のサイトでは、「米国発金融不安による世界同時株安」が、その原因として言及されている。

http://scrap-recycle.com/aluminum_000.html

ネット上における様々なリソースにおいて、アルミ缶の買取価格の下落を引き起こした要因として、「世界不況」「北京五輪の終了」「米国発金融不安による世界同時株安」が持ち出されていることを確認することができる。

アルミ缶の買取価格はどのようにして変動するのであろうか? 以下より、その答えとして頻繁に言及される「世界不況」や「北京五輪の終了」について検討してみたい。

北京五輪の終了」という要因

おそらく、アルミ缶の需要が高まれば、アルミ缶の価格は高騰するであろう。そして、アルミ缶の需要が下がれば、それに伴いアルミ缶の価格は下落するであろう。簡単な話である。教科書で習った「需要と供給」の話である。

アルミ缶の価格の下落をもたらした要因として、北京五輪が挙げられるのは、その意味で非常に納得しやすい。すなわち、北京五輪の会場やその関連施設や道路の整備等に、大量のアルミが必要とされたからと考えられるからである。

下記の資料は、中国におけるアルミの生産量と消費量を示している。北京五輪開催を直前に控えた2007年の時点において、確かに中国は、世界一のアルミ消費国となっている*1

http://www.aluminum.or.jp/basic/worldindustry.html

大量のアルミを必要とした中国は、日本からアルミを輸入していたと推測される。下記の資料によれば日本は、アルミの再生事業に積極的な国である*2。そのため日本は、野宿者の方々が収集したアルミ缶から再生地金を生産し、それらを中国に輸出していたと思われる。

http://www.alumi-can.or.jp/html/alumi_0102.html

このことから次のことが確認できそうである。北京五輪は2008年8月に終了したため、それ以降中国はアルミをそれ以前ほどには必要としなくなった。そのため、日本におけるアルミ缶の買取価格は、2008年以前の買取価格よりも低くなってしまった。

以上のことから、アルミ缶の買取価格に影響を与える要因として、「北京五輪の終了」が持ち出されることにはそれなりの信憑性があるといえそうである。

「(世界)不況」という要因

次に、「(世界)不況」について検討してみたい。

実は、なんらかの現象のメカニズムを説明することは非常に難しい。どのような出来事をどれだけ登場させて、どこまで過去に遡って説明をしなければならないのかよく分からないからである。なんらかの現象の生起メカニズムを説明する際には、その操作が現象の生起を制御することを可能にする出来事のみを動員するべきだと私は考える。そうであれば、そのような出来事だけを列挙していけばいいのであるが、それらを探り当てることがそもそも難しい作業なのである。

例えば、現代日本における「不況」を語る際に、最も頻繁に言及される「バブル」という現象。この現象の生起と崩壊のメカニズムについて、私は次のように説明することができる。

  1. 「土地の値段はどんどん上がる」という「土地神話」を信仰する不動産業者が土地を買い漁り、その土地を担保にして銀行から資金を借りた。同じように「土地神話」を信仰する銀行も、担保としての土地と引き換えに、不動産業者に資金を貸し付けた。
  2. 銀行から資金を調達した不動産業者は、さらにその資金で土地を購入して、1における自分たちの行為を繰り返す。同じく銀行も、1における自分たちの行為を繰り返す。銀行から資金を調達する不動産業者が土地を買い続けるので、土地の値段はひたすら上昇。
  3. 2が何度も繰り返され、土地の値段はひたすら上昇。
  4. 土地の値段の無限上昇に危機感を持った政府が、(1)「不動産融資総量規制の設定」と、(2)「地価税の創設」、(3)「公定歩合の引き上げ」を実行。(1)により不動産業者に銀行が資金を貸し付けることが禁止され、(2)により土地を多く保有している人間に税金が課せられることになり、念には念を押して(3)により銀行から資金自体を借りにくい状況を作り出すことにより、不動産業者と銀行による3の無限ループが停止を余儀なくされる。
  5. 土地の価格が頭打ちになり、「土地神話」に終止符が打たれ、バブル終了。これまでの不動産業者のような、極限まで高騰した土地を購入する胡散臭い人間がもはや存在しなくなり、土地の値段は急激に下落。かくしてバブルは崩壊。銀行は大量の不良債権を抱え、その処理のために他の企業に資金を貸すことを控え、日本経済は一気に冷え込んだ。

以上が「バブルとその崩壊」という現象に関するひとつの説明方法である。

しかし、次のように説明することも可能である。

  1. 1985年。経済状態が悪化していたアメリカの輸出を伸ばすために、ドルの価値を下げることに先進五カ国が合意。
  2. 日本は円高の状態となったため、輸出が伸びなくなり、円高不況に陥る。日本銀行は当時としては過去最低の値にまで公定歩合を引き下げ、国内の企業が銀行から資金を調達しやすい状況を作り出し、円高不況に対応。
  3. 公定歩合の引き下げにより、日本国内の景気が回復。日本銀行は引き下げすぎた公定歩合の引き上げを検討。
  4. しかし、ニューヨーク株式市場の株価大暴落である「ブラック・マンデー」が発生。日本における公定歩合の引き上げを予想した投資家たちが、投資先をアメリカから日本に変更し、アメリカで保持していた株を大量に売り出したことが発端。
  5. 日本の公定歩合を引き上げれば、アメリカ国内から資金が日本に移動し、アメリカ経済が崩壊する危険性があったため、日本は公定歩合を引き上げることを逡巡。そのため、日本では、公定歩合が低いままの状態が続き、銀行から資金を調達しやすい状況が温存された。
  6. 「土地の値段はどんどん上がる」という「土地神話」を信仰する不動産業者が土地を買い漁り、その土地を担保にして銀行から資金を借りた。同じように「土地神話」を信仰する銀行も、担保としての土地と引き換えに、不動産業者に資金を貸し付けた。
  7. 銀行から資金を調達した不動産業者は、さらにその資金で土地を購入して、6における自分たちの行為を繰り返す。同じく銀行も、6における自分たちの行為を繰り返す。銀行から資金を調達する不動産業者が土地を買い続けるので、土地の値段はひたすら上昇。
  8. 7が何度も繰り返され、土地の値段はひたすら上昇。
  9. 土地の値段の無限上昇に危機感を持った政府が、(1)「不動産融資総量規制の設定」と、(2)「地価税の創設」、(3)「公定歩合の引き上げ」を実行。(1)により不動産業者に銀行が資金を貸し付けることが禁止され、(2)により土地を多く保有している人間に税金が課せられることになり、念には念を押して(3)により銀行から資金自体を借りにくい状況を作り出すことにより、不動産業者と銀行による8の無限ループが停止を余儀なくされる。
  10. 土地の価格が頭打ちになり、「土地神話」に終止符が打たれ、バブル終了。これまでの不動産業者のような、極限まで高騰した土地を購入する胡散臭い人間がもはや存在しなくなり、土地の値段は急激に下落。かくしてバブルは崩壊。銀行は大量の不良債権を抱え、その処理のために他の企業に資金を貸すことを控え、日本経済は一気に冷え込んだ。

上記の説明では、「バブルを準備した出来事」として、「プラザ合意」や「ブラック・マンデー」という出来事が付加されている。このように、「バブル」の説明の仕方は、より詳しく、より複雑に行うことができる。さらに出来事を増やして、説明を行うことも可能であろう。

「(世界)不況」のメカニズムについて知っている方はおりませんか?

以上で確認してきたように、私は、何らかの現象のメカニズムを説明することに関して、困難を抱えている。説明に、「順当な複雑さ」をどのようにして持たせたらいいのだろうか? アルミ缶の買取価格の変動メカニズムを説明するには、どのような出来事をいくつ動員すればいいのだろうか?

巷において、既に十分に理解されているところの「バブルとその崩壊(およびそれがもたらした「不況」)」という現象についてさえ、どのような出来事をいくつ動員して説明すればいいのか迷う私が、日本における「バブル」よりもはるかに規模と範囲の大きい「(世界)不況」を、説明することができるだろうか?

「リーマンブラザーズが潰れて、不良債権を抱えた銀行が貸し渋りをするから。」という説明では、絶対にカバーしきれていない。これではあまりにも大雑把すぎる。しかし、どこから説明をし始めたらよいのか見当が付かず、また、どれほど文献を読み漁ればいいのか分からず、途方にくれる思いがする。ちょっと調べたらすぐに回答らしきものがゲットできると思っていたのだが、調べているうちにめちゃくちゃ難しい課題に取り組んているのではないかとびびってしまった次第である。

もしも、アルミ缶の買取価格が変動するメカニズムを、「(世界)不況」との兼ね合いで把握できている方がいたら、是非ともご教示願いたいと思う。

*1:しかし、上記資料を参照する際には注意が必要である。この資料は、新地金に限った資料であることに注意しなければならない。つまり、上記資料に登場するアルミは、アルミの原材料であるボーキサイト鉱石から中国が国内において生産したアルミに対象が限定されているのである。野宿者が収集するアルミ缶は、再生地金と考えられるため、上記資料には含まれていないはずである。そのため、この資料を参照することにより、日本における野宿者が収集したアルミ缶の価格について考察することはできない可能性がある。

*2:アルミをリサイクルする際に必要されるエネルギーは、「原料のボーキサイトからまったく新しい地金をつくる時のエネルギーのたった3%でOK」だそうである。