10/15の246キッチン

日時が前後してしまうけれど、とりあえず記録として書いておく。

246キッチン開催のお知らせがいちむらさんからメールで届いたので、大江戸線内にある有機野菜販売コーナーでブロッコリー200円を一把買い、重森さんは会社帰りに渋谷へと向かった。

首都高速3号線の真下。渋谷駅西口と南口を結ぶ国道246号線沿いの渋谷駅寄りの通路に足を踏み入れると、いちむらさんとカリスマデパ地下販売員が見えた。

路上生活者の方々のお住まいの一角をお借りし、テーブルを出してダンボールを敷物にして、今日も路上で調理を開始。

今日のメニューはカレー。

カリスマデパ地下販売員の指示のもと、人参と玉葱をサツマイモを重森さんはひたすら切る。切る。切る。やがてちらほらと人が集まってくる。「今日は何?」と知らないおじさんに聞かれ、とっさに「カレーです。」と答えると、「できたら呼んでくれんか。あそこにいるから。」と、ここから少し離れたダンボールの家をおじさんが指差す。「はい。カレーが完成したら呼びます。」とおじさんに答える。

レタスとブロッコリーは先にサラダとして調理されテーブルに並んでいる。後からいつのまにか来た小川さんがそれをパクパクつまみ食いする。いちむらさんが「まだ食べないでよー」と咎めるが、「酵素を先に取り入れておくと食事の時に体に負担がかからないんだよ」と言いながら小川さんはつまみ食いを続行する。相変わらず飄々としている。縛られない人だなと重森さんは感心する。

その傍らでカレーの材料を、元フランス料理シェフの路上生活者の方が黙々と調理する。この方は長髪で、伸びた髪を後ろで束ねており、いわゆるスティーヴン・セガール風の髪型。手つきが繊細で、みるみるうちに美味しそうな香りがしてくる。混ぜ方が澱みなく芸術的だ。

カレーが完成した頃、さっきのおじさんが自力で現れた。よく見ると右手の人差し指と中指が全くない。昔事故に遭ったのだという。それでも箸を使っておじさんは重森さんの右隣でカレーを食べ始めた。

カレーはうまかった。さつまいもとナスと挽肉と玉葱と人参の入ったカレー。

道行く人の視線や、上空を走る電車や、目の前の国道246号線の騒音を感じながら、がつがつカレーを食べる。

「そろそろ鍋の季節ですね!」とキラキラした目で小川さんが言ったので、「そうですね!」と比較的はきはきと重森さんは答えてみた。

ふいに「『路上生活マニュアル』本の作成も進めていこう」といちむらさんに言われる。「もちろん」という意味を込めて静かに重森さんは頷く。

「路上生活脱出マニュアルがあるのならば、路上生活マニュアルがあってもいいのではないか。」という重森さんの無謀な提案から生まれたプロジェクトを、いちむらさんが覚えていてくれたのがとても嬉しい。しかし、テーマは決まっているものの、本の形式と作り方は全く詰められていない。ICレコーダーで、野宿生活実践者であるいちむらさんへインタビューを行い、文字起こしをしてそれを本にするのか、フローチャートみたいな図を描くのか、漫画形式にするのか、特別企画として重森さんが実際にテントで生活しながら会社に通ってみるのか、そもそもどこの出版社から本を出すのか。まだまだ話は企画段階である。どうなるか分からないけれど、何かを作るプロセス自体を楽しむことが好きなので、無理なく気軽に欲望のまま、話を少しずつでも進めていきたいと重森さんは考えている。

残ったカレーを他の野宿生活者の方にお裾分けして、渋谷駅西口左手にある障がい者用トイレで食器と鍋を洗い、テーブルでお茶を飲んでしばし雑談した後、解散。