読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

大空港2013における嘘の分類

年末に、『大空港2013』という三谷監督による映画を視聴した。面白かった。スピード感溢れる独特の展開と、表情豊かな俳優達のコミカルな演技を楽しんだ。

http://www.wowow.co.jp/dramaw/daikuko/

「家族」と「嘘」が今回の映画の裏テーマだったように思う。

主人公の空港職員は、とあるワケあり家族の世話をすることになる。そして主人公は、その家族のメンバー1人ひとりがつく嘘について、作品後半部で以下のような趣旨の発言をする。

あの家族は皆、嘘をついている。けれど、それらの嘘は、家族を守るためにつかれている。家族というものは、結構良いものかもしれない。

嘘つきは家族以外の登場人物にもいる。

一人は偽パイロット。パイロットの格好をして空港に出没する職業的詐欺師であり、母親の後輩を装って、母親から20万2千円を騙し取ろうとする。

もう1人は主人公の上司。上記のような独り言をしたあと、主人公は、上司からのプロポーズにOKの返事をしようと決心する。その旨を上司に伝えようとした矢先、上司が、主人公の同僚の女性と結ばれたことが発覚する。つまり上司は、同時並行的に、主人公の同僚にもプロポーズをしていたのである。これを受けて主人公は、「誰でもいいのかよ」と吐き捨てる。

主人公による発言は、「家族を守るための嘘なら許せる。嘘までついて守られる対象である家族は、素晴らしいものではないか」という読みを許す内容である。当然のことながら、「家族を守るといえば聞こえは良いが、守る動機や守った結果は、必ずしも良いものではないのでは?」や「家族の良い面と悪い面の両方を考慮したほうが良いのでは?」や「人に嘘をつかせる家族というものは、そもそも一体何なのだろう?守る必要があるものなのか?」という疑問が真っ先に思い浮かぶ。

しかし、このような家族に関する疑問以前に、私は、主人公によって使用されている「嘘」という言葉により強い違和感を感じた。

主人公は「あの家族は皆、嘘を付いている。」と述べていたが、私は、それぞれ微妙に性質の異なる出来事が、「嘘」というカテゴリーに含められてしまっているように感じた。区別できるものを区別せず、嘘という容器の中に多種多様な現象を放り込んでいるという印象を受けた。「そんな大雑把なことしていいの?」という違和感が生じたのである。

以下より、単に私の頭の整理のために、私なりの「嘘」の定義を示し、それと映画の登場人物達の具体的な言動を照らし合わせてみたい。

嘘の定義と、登場人物それぞれの嘘の分類

我々は日常生活上で「嘘」という言葉を用いる。その対象は、以下の3つに分類できるといえる。

1、事実と異なること。
2、約束を破ること。
3、本心を偽ること。

そして、『大空港2013』の登場人物達の言動が、上記分類のどれにあてはまるかを示したのが、次の表である。

  父親 母親 祖父 息子 伯父 上司 偽パイロット
×  ×  ×  × × × ×
○  × ×  × × × × ×
○  ○  × × ×

登場人物達による嘘の中身を具体的に記述するなら、以下のようになる。

父親:不倫している。つまり、妻一人のみを愛するという結婚の誓い(約束)に違反している点で、妻に2の嘘をついていることになる。また、妻に飽きているにも関わらず、妻と婚姻関係を結び続けているという点で、3の嘘をついているともいえる。
母親:偽パイロットが「かつて自分に好意を抱いていた後輩」ではないこと。このことに気付いているにも関わらず、偽パイロットに金銭的援助をしようとする。つまり、母親は、騙された振りをしており、偽パイロットを騙している点で、3の嘘を付いているといえる。また、母親は、夫に飽きているにも関わらず、夫と婚姻関係を結び続けているという点でも、3の嘘をついているといえる。
祖父:自分自身がゲイであることを隠していたが、長年連れ添った妻を失ったことで、空港で皆の前でカミングアウトした。
娘:19歳であるが、40代のバツ3男性と結婚するつもりでいる。実はその男性の子を宿しており、その男性も空港に一緒に来ている。これらのことを家族に打ち明けるチャンスをうかがっている。
息子:親に無断で大学を辞めた。演劇のオーディションを受けようとしている。
伯父:母親の兄。事業で失敗し続けている。豆電球でプラネタリウムを作り人を呼ぶ事業を計画し、その資金を母親と父親に無心している。
上司:主人公にプロポーズをした。同時並行的に別の女性にもプロポーズをした。
偽パイロット:パイロットではないのにパイロットの格好をし、周囲に自分自身をパイロットと思わせている。「かつて母親に好意を抱いていた後輩」を偽って母親に接近し、金銭的に困っているので助けて欲しいと頼み、母親からお金の援助を受けようとしている。前科付きの詐欺師。

嘘の分類の修正

表を完成させてみて、はたと気付くことがある。娘や息子が全く嘘つきになっていないのである。考えた末、4のような嘘を追加すれば、「家族のメンバー全員が嘘をついている」という状態が実現することが分かった。

1、事実と異なること。
2、約束を破ること。
3、本心を偽ること。
4、言うべきことを言わないこと。

ちなみに、分類表は以下のようになる。

  父親 母親 祖父 息子 伯父 上司 偽パイロット
×  ×  ×  × × × ×
○  × ×  × × × × ×
○  ○  × × ×
?  ?  ×

娘や息子は、両親が知ったら驚くような情報を持っているが、あえてそれを隠している。つまり、言うべきことを言わないでいる。この事態も嘘と呼ぶことができ、かつ、伯父を家族のメンバーから除外できるのであれば、「家族のメンバーは全員嘘をついている」といえそうである。

ただし、4の嘘を導入するにあたり、「言うべきことかどうかは、どのように判断できるのか?」や「情報を隠すこと自体が果たして嘘をつくことになるのだろうか?」という疑問が生じる。これは、本当に嘘と呼んでもいい事態なのだろうか。通常用いられる嘘という言葉から大分ズレた意味になっているような気がしてならない。

まあ、あんまり深く考えずに、『大空港2013』については、そのテンポと笑いを楽しめば良いのであろう。「あの家族は皆、嘘をついている。」という趣旨のセリフは、適当に作られたセリフであり、それほど深い意味は込められていない可能性があり、整合性はそこまで考慮されていないのかもしれない。

もしも上記の私の読みに明らかな間違いがあれば、遠慮なく指摘して欲しいと思う。