「ブラック企業と闘う~アメリカ非正規雇用の労働者たち」の感想
アメリカの労働環境の今とそれを改善する動き
NHKドキュメンタリーWAVE「“ブラック企業”と闘う~アメリカ 非正規雇用の労働者たち~」を視聴した。
http://www.nhk.or.jp/documentary/aired/151004v.html
アメリカにおける労働現場の現状と、その改善に従事するアクター達の動きを知ることができる、良い内容のドキュメンタリーであった。
ロサンゼルスのNPOであるKIWA。賃金引上げ運動の牽引者となり、時給を15ドルに引き上げる法案を可決させることに成功。
UCLA労働者センター。街頭での丹念な聞き取り調査等を通して、賃金未払いを行う企業を特定し、それらの名前を紙媒体で公開。
そして、カリフォルニア州労働基準監督署。賃金未払いで悩む移民労働者のために、彼の職場であるピザ屋の前に張り込んで、その正確な労働時間を記録。経営者を呼び出してそれを突きつけ、未払い賃金を奪還。
権利意識をいかに育てるか。これがKIWAの課題の一つとして語られていた。労働者の権利や、労働に関する法律の動きに、肝心の労働者達のほとんどが疎い。この状態を改善するための方法が検討されていた。メンバーの一人から、SNSを使って情報を拡散するという提案がなされていた。
番組には、ブラック企業での労働経験から、働く意欲はあるものの、労働に乗り出せなくなった学生が登場。彼女にとって、制服代を給料から勝手に引かれ、怪我で休めば出勤を促す電話が執拗にかかってくるという職場経験は、トラウマと表現しても過言ではない経験であったようだ。
労働に恐怖を感じさせる職場があってはならない。このように断言し、「経営者に暴力を振るわれた」という告発のあったレストランに車で向かうKIWAのリーダー。調査のために、店に客を装って入り、店内を携帯で撮影。身分を明かさずに従業員と接触し、情報を聞き出す。まるで探偵のようだ。労働探偵。
上記のようなアメリカでの動きを、私は非常に頼もしく思う。
日本の労働環境の今とそれを改善する動き
日本でも、ブラック企業が労働者に対して行う搾取行為は、深刻な社会問題となっている。最近では、アリさんマークの引越社を相手に、弁償金の返還、減額された賃金の請求、残業代の請求等を求めて、従業員による提訴が行われた。
沖縄の労働環境の今とそれを改善する動き
そして、私が住む沖縄。
実は沖縄の企業には、法令違反を犯すものが多い。沖縄労働局の調べでは、定期監督を行った事業所の約8割の沖縄企業が、法令違反をしているとのことである。
経営者に労働法制の知識がなく、結果的に法令違反を行う。あるいは、経営者は労働法制の知識を持ってはいるが、経営状態が悪いためにそれを遵守できず、法令違反に手を染める。このようなケースが、沖縄では多々あるのではないかと私は推測する。
また、労働者の権利意識が低いために、声を上げるべき時に声を上げないことで、上記のような経営者をつけあがらせてしまっている側面があるようにも思う。
上記琉球新報の記事によれば、沖縄労働局長である待鳥浩二さんは、沖縄のブラック企業に対して、「重大悪質な事案は送検を含めて厳正に対処する」と述べているそうであるが、労働者に正当な対価を支払わない経営者に対しては、強盗や窃盗と同じ重さの刑を是非とも科して欲しい。なぜなら、KIWAのサイトの左下に表示されているように、Wage Theft is Crimeだからである。提供した労働に対する正当な対価を支払わないことは、賃金を窃盗・泥棒することであり、それは犯罪だからである。
確か、ドキュメンタリーの中で、カリフォルニアの労働基準監督署の役人が、次のように述べていた。
「経営が苦しくて、違法行為に及んでしまうということは理解できる。彼等の大部分も移民の労働者だ。しかし、経営が苦しいからといって、労働者を搾取していいということにはならない。」
全くその通りだと思う。経営が苦しいことを言い訳にして、従業員に支払うべき賃金を盗んでいいはずがない。それは窃盗・泥棒を肯定することと同じ行為であろう。
残念ながら、沖縄では、労働環境の改善を意図した目立った動きを目にしない。もしかしたら、そのような活動は沖縄にも存在しており、それに私が無知なだけなのかもしれないが、アメリカや本土と比べて、沖縄では、労働運動がいまいち活発ではないという印象がある。労働法制を破ることのリスクを経営者に広く知らしめ、健全な労働環境を自分や自分の子どものために確保するためにも、現在のアメリカで展開されている労働環境改善の潮流に、我々もしっかり乗るべきであると強く思う。