女性や小柄な男性や子どもにおすすめの武術・格闘技・護身術は何ですか?


この記事では、




「女性や小柄な男性や子どもにおすすめの武術・格闘技・護身術は何ですか?」

 



という疑問にお答えします。


答え:柔体の武術であれば何でもOK

どんな武術・格闘技・護身術(以下、武術と略す)も、身体の使い方に注目すると、次の2つに分類できます。

  • 剛体(筋肉量を重視し、緊張と腰の回転が特徴)
  • 柔体(脱力を重視し、最小限の筋肉での骨格操作が特徴)

人によっては、上記区分は、近代武道(現代武術、競技スポーツ武道、近代的トレーニング)vs古武術(古式、古武道、伝統武術)と表現されたりもします。

ざっくり言えば、剛体筋トレして体の各箇所をバラバラに鍛えて緊張させて使う身体操作の方法で、柔体脱力や骨格を駆使して関節を鞭のように連動させて身体を総動員する身体操作の方法です。

突きの特徴を比較すると、どちらの突きも当たれば痛いですが、剛体の突きは人体の表面の1点のみに圧がかかる突きですが、柔体の突きは人体の奥まで衝撃がズズンと浸透する突きです。

私がおすすめするのは柔体の武術です。

なぜなら、柔体の武術は、闘う相手との筋肉量や体重や体格の差を無視できる武術だからです。

なので、女性や小柄な男性や子どもにおすすめです。

ところで、剛体や柔体といった用語を、初めて耳にする方が多いと思います。

これらの概念を理解するうえで特に参考になる記事を2つ紹介致しますので、是非ともお読みください

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柔体の武術家(順不同)

私が調べた限り、柔体の武術は、日本では次の方々から学ぶことができます。

一体どうやって選んだの?」と疑問に思われる方もいらっしゃると思います。

映像と書籍と空手仲間からの情報に基づき、「この人は柔体の武術の使い手に違いない」と、私が勝手に判断させていただいた次第です。

柔体の武術にも様々なレベルがあるとは思いますが、上記に挙げさせていただいた方々のレベルに到達できれば、自分の身を守ることは十分可能です。

なお、上記の方々以外にも柔体の武術の使い手はいらっしゃいます。上記はほんの一部です。

剛体と柔体の違いの詳細について

剛体と柔体の違いについて、詳しく解説していきます。

柔体の武術と剛体の武術は正反対の関係にあります

剛体の武術は、筋肉量を重視し、緊張と腰の回転が特徴です。剛体の武術では、筋肉量が多く、体重が重く、体格が大きいほど、有利になります。

なので、女性や小柄な男性や子どもにはおすすめできません。

もちろん、剛体も役に立ちます

しかし、もしも相手が自分よりも筋肉量や体重や体格が上であれば、剛体の土俵では不利になります。

ボクシングでたとえると、いくらモスキート級のチャンピンでもヘビー級のチャンピオンと闘えば不利になります。

しかし、柔体なら、相手との筋肉量や体重や体格の差に関係なく、相手を制することができます。

また、剛体の武術では、身体に負荷がかかるので、肩の断絶などの故障が起きやすいです。加齢により、身体が衰えると、さらに怪我が多くなります。

しかし、柔体の武術では、脱力した上で身体に負荷をなるべくかけないように骨格に沿った動きをするので、肩の断絶のような故障は稀です。加齢の影響も少ないです。

柔体の武術における身体操作の具体例:ナジーム・ハメド

柔体と剛体の区別は、身体の使い方という観点に基づいた区別です。

そのため、ボクサーであっても合気道家であっても空手家であっても、身体の使い方に注目すれば、柔体の使い手と剛体の使い手に分類できます

なので、この記事冒頭の「どんな武術・格闘技・護身術(以下、武術と略します)も、身体の使い方に注目すると、次の2つに分類できます。」という私の文章は、厳密には間違いです。

つまり、たとえば、

  • ボクシングは剛体の武術。
  • 合気道は柔体の武術。

というような断言はできない、ということです。

なぜなら、ボクサーにも柔体の人はおり、合気道家にも剛体の人はいるからです(特に、多くの合気道初心者が、日頃の習慣が抜けず、技をかける際に力んでしまって剛体になっていると予想されます)。

たとえばボクサーで柔体の人といえば悪魔王子ことナジーム・ハメドという人がいます。

彼の動画はネット上ですぐに見つかるので、名前を検索してみて下さい。

そして、動きに注目して下さい。

ハメドは、気軽に遊ぶように高速パンチを連発しますが、パンチには威力があります。

このような速い連発パンチは、脱力していないと、できません

脱力することで、全身の関節が連動し、全体重のかかった重いパンチになっていると考えられます。

腰を回したり、肩を引いたりせずに、両腕をだらんと幽霊のように垂らした状態から、やや投げやりな(ある意味、ふざけた)モーションでパンチが出ているのも、ハメドのパンチの特徴です。ノーモーションなので、相手はパンチを察知することが困難になっています。

さらにハメドは、順突き(右手と右足を前に出す、あるいは、左手と左足を前に出す)を頻繁に出します。順突きは、突きにブレーキがかからない動きなので、腕を伸ばし切ることで骨格を最大限に生かせます(相撲の張り手と同じナンバの動きです)。

ジャブは順突きです。そのため、「ハメドは単にジャブを打っているだけ」ともいえますが、たとえそうだとしても、普通のジャブではない、かなり威力のある突然変異系ジャブです(形は少し違いますが、ハメドのパンチは発勁ワンインチパンチに近いです)。

ハメド本人が脱力骨格操作をどれほど意識しているのかは不明です。

しかし、映像を見る限り、ハメドの動きは、力んで腰を回して逆突き(右手と左足を前に出す、あるいは、左手と右足を前に出す)をする筋肉量重視の剛体の動きとは異なります

ハメド速くて威力のある連発パンチは脱力しているからこそ可能です。おそらく、ハメドのパンチは、相手の体を貫通して内部に響くようなパンチです。ハメドのパンチは、他の階級でも十分通用したに違いありません

ただし、ハメドのようなボクサーは珍しいです。ほとんどのボクサーは剛体です。

このことは、柔体の武術は習得が難しいものであることを物語っていると私は捉えています。ハメドは華々しい実績を残しましたが、ハメドのスタイルを踏襲したボクサーはその後全く現れていません。

やってみればすぐに分かりますが、力むことよりも力を抜くことは難しいです。

特に、喧嘩や戦闘などの危機的な場面では、身体が勝手に緊張してしまうものです。これを脱力させるというのですから、柔体の武術は常識外れの不自然なことをしているといえます。

常識の外に出ることが必要なので、師匠からは「道場の稽古だけでは強くなれない。日常生活を柔体の体使いで過ごしたほうがいい」と言われています。

それだけ柔体の武術は習得が困難であり、それゆえに使い手が少ないのでしょう。

剛体の武術と柔体の武術、それぞれのメリット・デメリット

柔体の武術家は、基本的にマシーン等を用いた筋トレはしません。腕立てやスクワットはしますが、すべて自分の体重を使った筋トレです。

全盛期のシュワルツェネッガーシルベスター・スタローンのようなマッチョな人は、柔体の武術家には見掛けません。

にも関わらず、柔体の武術家は、自分よりも筋肉量が多く、体重もあり、体格も良い相手をいなしてしまうのですから、非常に不思議です。

私の師匠は高齢者ですが、海外から訪ねてくる、映画プロメテウスのエンジニアみたいな大男をいなします。最近では、米国から来沖した大柄な兄弟子のローキックやフックを、柳のような脱力した腕と足でガードし、悲鳴を上げさせていました。

柔体の体に、剛体の突きや蹴りを打ち込むと、なぜ剛体の人は激痛を感じて、柔体の人には何の痛みも生じないのか。

この仕組みは師匠でも分からないそうです。

脱力して相手の攻撃に向かって腕や足を差し出すと、相手の攻撃に対処できるのでそうしている、とのことでした。

攻撃を防ぐだけでなく、師匠はハメドのように連発して重い突きを繰り出すこともできるので、ほぼ無敵です。この突きには、防御した腕がおかしくなるほどの威力があります。脱力していればいるほど力が出る、という不思議な現象です。

こんな風に、柔体の武術には、謎が一杯です。

剛体の武術のメリット

稽古すればするほど上達する

柔体の武術がいかに優れているかを解説してきましたが、私は剛体の武術を下に見ているわけではありません。

剛体の武術には、柔体の武術にはないメリットがあります

剛体の武術は、稽古すればするだけ上達します。成果が着実に出ます。これが剛体の武術の最大のメリットです。

路上で武術素人の暴漢に素手で襲われる程度であれば、剛体の武術で十分に対処できます

私の兄弟子に、タイでムエタイの試合に出ていた方がいらっしゃるのですが、剛体の体使いでローキックを脛にしてもらったところ、分厚いミット越しとはいえ、「折れたのではないか」というほどの衝撃を受けました。

剛体は剛体で、断然使えます。稽古を適切に繰り返せば、絶対に強くなれます。

一方、柔体の武術は、習得が非常に困難です。

私は、柔体の武術を学んでいるため、柔体の武術をおすすめしますが、私を含めて周囲の兄弟子達も、柔体の武術の習得にかなり苦労しています。

師匠の技を取れる人はいるのですが、取れない人は何年経っても取れないのではないかという不安があります。私も3年ぐらい稽古しているのですが、師匠の技をまだ1~2割ぐらいしか再現できません。それも、日によってできたりできなかったりします。

なので、何か事情があって「可能な限り早く武術を習得する必要がある。少なくとも3年後にはそこそこの実績を出せるほどに上達しなければ」という人に対しては、私は剛体の武術をおすすめします。

「筋トレして体重を増やしてフォームを覚えて何度も稽古すれば着実に強くなれる」という安心が剛体の武術にはあります

手ごたえがあるので、技の威力の調整がしやすい

突きや蹴りに手ごたえがあることも剛体の武術のメリットです。

突きや蹴りをしている実感と、それがガツンと相手に当たる生々しい感触があります

そのため、威力を調整することが容易です

一方、柔体の武術では、突きや蹴りに手ごたえがないです。

脱力して最小の筋肉で骨組みを動かしているので、突きや蹴りが相手に当たっても、ガツンという衝撃が感じられません。相手の体に触れているという感覚はありますが、突きや蹴りが相手の体にぶつかる感触がほとんどないので、突きや蹴りの威力を調整することが困難です。

そのため、稽古中に、挨拶レベルの軽い突きで、相手に深刻なダメージを与えてしまうことがあります。後ろに吹っ飛ばずに、その場で前屈みに倒れた場合は、救急車を呼んで病院にかつぎこまなければならなくなります。

このような事故を防止するために、特に柔体の武術の稽古では、「突きや蹴りをする前に必ず相手に声を掛ける」や「相手の体に突きを直接当てるならば相手の肩に限定する」等の工夫が必要です。

私も、「よ!」と兄弟子に声を掛けられて挨拶代わりに正面から軽く胸に突きを当てられ、3カ月ぐらい、息をするたびに胸が痛むことがありました。肋骨がどうにかなっていたのだと思います。

理想:剛体の武術と柔体の武術を使い分ける

剛体と柔体の両方を使い分けることができれば、最高です。

師匠は、場面によって剛体と柔体を切り替えます。

これは上級者の技なので、私はまだできないのですが、柔体の相手と組手を行う場合、師匠はわざと力んで相手に触れることで相手を一瞬だけ剛体に変えて、その後で自分を柔体に切り替えて相手に技をかけます。

柔体と柔体がぶつかった場合、柔体の技に対応できるのは柔体の技しかないので、お互いの攻撃が無力化されて、技のうねりだけが延々と2人の体を巡り続けるような、2人で踊っているような状態になります。様々な種類の推手を、優雅に行っているような状態になります。こうなるといつまで経っても勝負がつかないので、相手を一時的に剛体に変えて脆くして、柔体の技が効くようにする必要があります。

まとめ

  剛体(筋肉量を特に重視) 柔体(最小限の筋肉を使用)
体の使い方 ・緊張
・腰の回転
・脱力
・骨格操作
        メリット ・実践で使える
・稽古の成果が着実に出る
・手ごたえがあるので、技の威力の調整が容易
・実践で使える
・加齢の影響を受けにくい
・体への負担が小さい
・剛体に強い
デメリット ・加齢の影響を受けやすい
・体への負担が大きい
・柔体に弱い
・稽古の成果が出にくい
・手ごたえがないので、技の威力の調整が困難

これまで見てきたように、剛体には剛体の、柔体には柔体のメリット・デメリットがあります

これらをまとめたのが上の表です。

私は、柔体の武術をおすすめしますが、まずは、何でもいいから武術を学んでみて、自分に合ったスタイル(剛体なのか柔体なのか)を模索すると良いと思います。

私も、もうしばらく柔体の武術の稽古を続けてみて、成長に限界を感じたならば、剛体の武術を適宜取り入れて、自分の特性に合った自分の武術を完成させるつもりです。