本物の超能力者と偽者の超能力者を区別したい

東京から電車に乗って北九州に行く間、ずっと森達也の『職業欄はエスパー』を読んでいた。

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すごく面白い。

なんというか、これは上質のエスノグラフィーだと思う。森さんは人類学者顔負けの議論を展開していると思う。

森さんは、私が修士論文で展開した議論と、非常によく似た話をしている。

「信じる」「信じない」の二項対立のはざまで迷う森さんは、まるでファヴレ=サアダのようだ。「そんなことあるはずがない。だがしかし…」の白黒判別つかない曖昧なグレーゾーンに、森さんは立ち続ける。

森さんは、ファヴレ=サアダがそのままテレビ番組制作者になったような人だと思った。

なによりも私を驚かせたのは、清田という名のエスパーに関する記述だった。私はこの記述を読み、超能力の存在について懐疑的になれなくなってしまった。

森さんは素直に取材対象に対して向き合う人だと私は思う。自分の思い込みに基づいて他者を描いてしまうような人ではないと私は思う。

そして彼は非常にいい感じで懐疑的な人物だと私は思う。偏見や思い込みに対して、他人のそれだけでなく、自分のそれに対してもバランスよく懐疑的になれる人だと思う。彼は、なんらかの対象に対する自分自身の認識だけでなく、いわゆる科学や常識といった言葉で当たり前のこととされている事柄をも、終始疑うことができる稀有な人物だと私は思う。

その森さんが、清田というエスパーを前にして、迷いまくるのである。「清田はスプーンを腕力や握力といった手段以外の未知の力で切断しているのではないか? 清田は現在の科学では説明することができないような仕方でスプーンを曲げることができるのではないか?」と迷いまくるのである。

私もしっかり迷ってしまった。

なんだか「本当に」清田という人物は、いまだ解明されていない風変わりな方法で、スプーンを曲げているような気がしてきたのである。

なんの因果か分からない。清田なる超能力者の実家は北千住にあるらしい。彼の両親はそこで寿司屋を営んでいるという。少年時代の清田がスプーンを曲げていた机がその店にあるらしい。その机の上に方位磁石を置くとぐるぐる回るのだそうだ。磁界が狂っているとのこと。

なんか面白い。

千住のその寿司屋に行って、是非ともその机の上に、方位磁石を置いてみたい。