学級崩壊にはどのように対応したらよいのでしょうか?


この記事では、




「学級崩壊にはどのように対応したらよいのでしょうか?」

 



という疑問にお答えします。


学級崩壊への合理的な対応方法

答えから言いますと、「教員を増やすこと」が答えです。


教員を増やし、多くの子どもに対応できるようにする。

これが学級崩壊の処方箋です。

このことを裏付ける研究論文「教員加配の有効性について」が、東京大学社会科学研究所教授の田中隆一氏(専門:教育経済学・労働経済学・応用計量経済学)によって、2019年に発表されています。

教員加配の有効性について」は、全国の公立小中学校を対象に、教員加配の有効性を統計学的に分析した論文です。

研究の結果、以下のことが判明致しました。

問題行動のうち暴力行為の抑制に対して教員加配は負の統計的に有意な関係があること,また児童生徒支援加配はいじめの認知件数と正の統計的に有意な関係があることが示唆された。

田中隆一 「教員加配の有効性についてOn the Effectiveness of Additional Teacher Allocation」 2019 会計検査研究 (59), 105-125, 2019-03

統計学の言い回しが使用されているため、やや内容が分かりにくいですが、要するに、

教員を増やしたら、子どもの問題行動(暴力行為)は少なくなった。また、いじめが発見されやすくもなった(いじめが放置・隠蔽されなくなり、対応可能になった)。

ということです。

この研究では、いわゆる学級崩壊で確認される「教師の話をきかない」や「指示通りに動かない」や「授業中に教室を飛び出す」や「授業中に教室を勝手に歩き回る」等の子どもの問題行動を直接的には分析対象にしていません。

しかし、上記の問題行動よりも深刻な暴力行為を分析対象にし、これらが教員の数を増やすことで抑制できることを明らかにした点で、非常に画期的です。

なお、この研究で分析対象となっている暴力行為とは、「児童生徒が、故意に有形力(目に見える物理的な力)を加える行為」であり、以下の4つを指します。

  1. 対教師暴力(教師に限らず、用務員等の学校職員も含む)
  2. 生徒間暴力(何らかの人間関係がある児童生徒同士に限る)
  3. 対人暴力(対教師暴力、生徒間暴力の対象者を除く)
  4. 学校の施設・設備等の器物損壊

これらを教員を増やすことで抑制できるということは、これらよりも軽度の問題行動も抑制されて当然と考えてよいでしょう。

教員を増やし、多くの子どもに対応できるようにする。いわゆる教員加配が、学級崩壊の抑制に有効であることは、東京都教育委員会が行った調査でも示唆されていましたが、このことが統計学的な解析により立証されたのは、日本ではおそらく初めてのことだと思います。

この貴重な知見を踏まえるならば、学級崩壊に対しては次の3つに留意するのが合理的です。

  1. 学級崩壊の引き金になる言動を行う子どもに独りで対応しない
  2. 同僚や管理職に相談してチームを組織しサポート体制を整える
  3. 複数の教員・大人に応援を頼み教室に入ってもらう

以下、上記について詳しく解説致します。

1.学級崩壊の引き金となる言動を行う子どもに独りで対応しない

学級崩壊と聞くと、授業を妨害する子どもをどうにかしようと考えがちです。

しかし、特定の子どもに教員が対応し続けると、授業がストップするだけでなく、教室の雰囲気が悪くなります。

何度注意しても改善が見られない場合、教室で教員は常に怒っていたりイライラ・ピリピリしていたりすることになります。

そうなると、授業に参加している他の子どもが緊張したり不安になったりしてしまい、教員との間に距離ができ、子どもだけでなく教員も学校が楽しくなくなります

なので、数回注意しても状況が変わらないなら、同僚や管理職に相談し、複数の教員・大人に応援を頼み、教室に一緒に入ってもらうのが賢明です。

「自分独りで何とかしないと!」と多くの教員は思うかもしれませんが、自分で何とかならないから学級崩壊は起きるので、最初から助けを求めた方が、被害が少なくてすみます。

心身ともに疲弊して休職・退職してしまう前に、どんどん弱音を吐きましょう

弱音を吐けない真面目な教員は要注意です。

確実に精神を病んでしまいます。

2.同僚や管理職に相談してチームを組織しサポート体制を整える

相談は、管理職に行うのが最も話が早いです。

そして管理職は、SSWやSCや特別支援教育コーディネーターや学習支援員等のリソースを使って、問題行動を行う子どもにチームで対応できるように取り計らってください

このチームさえ組織できれば、問題はほとんど解決しています。

逆に言うと、チームを組織できないほど教職員が多忙であったり、非協力的であったりすると、学級崩壊を止めることは困難になります。

3.複数の教員・大人に応援を頼み教室に入ってもらう

複数の教員・大人が教室に入り、机間巡視するだけでも、雰囲気が変わります。

そして、問題行動を行う子どもには、学級担任ではなく、彼等が対応します。

学級担任には授業を進めてもらい、問題行動をしている子どもには、応援の教員・大人が付く。

このようなチーム対応の効果を裏付ける証拠として、次のような生々しい事例もあります。

小学校で私も、特別支援教育コーディーネーターとして、上記のようなチームの形で、問題行動をしている子どもに直接関わりました。

場合によっては、子どもを教室外の広場に連れていき、そこで対応することもありました。また、保護者と相談し、授業を特別支援学級や通級で受けてもらうこともありました。

これにより、学級担任の負担軽減と、教室の学習環境の改善を、完璧ではないにせよ、ある程度達成することができました。

学校教員の真の存在意義・役割・仕事

学級崩壊は、子どもの教育を受ける権利を侵害するものです。

学校で子どもが教育を安心して受けられるように、教員は職務として学級崩壊を防止しなければなりません

しかし、教員の仕事は、問題行動を起こしている子どもを威圧して服従させて静かにさせることではありません

問題行動を起こす子どもには、それなりの理由があるはずだからです。

子どもは問題行動を起こすことで助けを求めている可能性があります。

文科省の「児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査」(平成30年度)によると、小中学校での暴力件数は増加傾向にあります。

平成 30 年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果について

これは、もしかしたら、虐待などの暴力の問題が背景にあるからかもしれません。

長引く不況で、仕事がうまくいかず、経済的に苦しい状況に立たされた大人が、現在は少なくありません。

このような時、最も被害を受けやすいのは子どもです。

大人が仕事や社会で受けるストレス・暴力が、子どもにそのまま向かい、子どもが勉強どころではない精神状態になり、暴力的になっている可能性があります。

実際、児童虐待の相談対応件数は増加傾向にあります。

平成30年度 児童相談所での児童虐待相談対応件数<速報値>

平成30年度の児童相談所による児童虐待相談対応件数(速報値)が厚生労働省から公表されました。件数は15万9850件で、前年度より2万6072件(19、5%)増え、過去最多を更新しました。

厚生労働省 平成30年度の児童虐待相談対応件数等を公表

子どもを取り巻く環境は年々悪化しているとしか思えません。

こんな時代だからこそ、学校では、昔のように暴力で子どもをおさえつけて秩序を維持するのではなく、子どもに寄り添い子どもの話に耳を傾ける丁寧な接し方が必須です。

私が尊敬する研究者に、上間陽子先生という方がいらっしゃいます。学校を子どものための砦として捉え、勉強や学力向上よりも子どもの生存や安全を優先する考え方を、発信していらっしゃいます。

上間先生が2017年に上梓された『裸足で逃げる 沖縄の夜の街の少女たち』では、虐待やDVなどの暴力を受けている子どもを学校の教員が守ることの重要性が述べられています。

また、上間先生は教員研修の講師として「沖縄の子どもの貧困と学校の対応」と題した講演もされております。下記は、研修で上間先生が訴えた内容の一部です。

子どもの声を聴くことができる教師や大人にしか子どもは話さない。
・階段を上がったら、そこに会いたい人がいる学校作りを。
・学校を学びだけの空間にするのではなく、来たいと思わせるようにしてほしい。

沖縄県立総合教育センター所報 第80号 2019年9月発行 p-3

勉強は自立と社会参加に必要であるが、勉強よりも生存・安全が第一という思想です。

学級崩壊を防止することは大切です。

しかし、学級崩壊の引き金となる言動を行う子どもを敵としてみなし、威圧して服従させるだけでは問題です。

そうではなく、目の前で問題行動を起こしている子どもを「何らかの必然性があって問題行動をせざるをえない子ども」と捉える視点が、教員には必須ではないでしょうか。

学校は、子どものためにあるのであり、教員は子どもを守り育てるために存在している

全ての学校関係者はこのことの共通理解を図った上で学級崩壊に対処して欲しいと思います。