文化人類学解放講座・映像篇

一橋大学で行われた下記のイベントに参加してきた。

文化人類学解放講座・映像篇

オールナイトだった。4時頃激しい眠気に襲われ、演習室の床で仮眠を取る。気がつくと翌日の9時であった。イベントは既に終了していた。11時半まで共同研究室で時間を潰し、いんでぃ庵でカレーを食べた後、国立を去った。

Youtubeを見ていると、○○人とか○○の国の人々に抱いていたこちらの勝手な偏見が覆される。世界中の人々が、自分達で撮った映像をどんどんアップしている。こんなふうに、世界中の人々が好きなように動画をアップできるメディアは、今までなかった。Youtubeには、マスコミが絶対に取り上げないような映像が溢れている。今回は、その一部を紹介します。これらの映像を見るにあたり、「偏見のない澄んだ目」で見る必要は、ないです。むしろ、どうか、思い込みに捕らわれていて欲しい。偏見を持って、映像を見て欲しい。そしてそれが壊れるのを楽しんで欲しい。偏見がないと、偏見を壊すことはできないので。」

会の始まりにおけるオカピの発言が、最も記憶に残っている。

確かに、思い込みがなければ、思い込みから自由になることはできない。思い込みが崩される感動は、思い込みがなければ感じることができない。

今回のイベントでは、『Nanook』と『Eskimo』と『THE ESKIMORPHOZE A.P.T.N. mix』と『氷海の伝説』と『Cultures Lost the Nubas of Niaro』を見れたことが、大きな収穫であった。

『Nanook』は、イヌイットに関する映像作品。イヌイットの子どもの笑顔がたまらなく可愛い。防寒具を着た少女が、揺れながら、綿のように柔らかく微笑む。


『Eskimo』は、The Residentsというグループによる作品。この作品は、人を不安にさせるような不吉な雰囲気を帯びている。これは、イヌイットを保護区へ囲い込む行政のやり方に、The Residentsが異議申し立てを行っているからであろう。

そして『THE ESKIMORPHOZE A.P.T.N. mix』。イルコモンズ作によるこの映像は、繰り返し何度も見たくなるような、非常に癖になる作品であった。The Residentsによる『Diskomo』の持つ不穏さ*1と、テレビ漬けの生活を送る保護区のイヌイットの姿*2と、『Nanook』におけるイヌイットの微笑み*3で構成されたこの作品は、狩猟採集生活を営んでいた頃のイヌイットと、保護区に繋がれてしまった現在のイヌイットとを対比することにより、「何かが失われたこと」を印象付けることに成功している*4。鑑賞後、なんとなく悲しい気分になる。


次に、『氷海の伝説』。これもイヌイットに関する作品である。ただし、現役のイヌイット自らが、この作品の製作者である。男女の馴れ初め、そして愛情生活がほのぼのと描かれていて、見る者を暖かい気分にさせる作品*5イヌイットに関する一連の作品を鑑賞してきた私は、「保護区に閉じ込められたイヌイットは「本来のイヌイットらしさ」を失ってしまった」と認識してしまっていた為、この作品を見て裏切られ、そして安堵した。保護区に入れられたぐらいで、そう簡単には変わらないものもあるのだと安心した*6

最後に、『Cultures Lost the Nubas of Niaro』


これに関するオカピの解説が面白かった。

「ヌバのエリートたちは賢い。一方的に、中心によって表象されるだけの周縁ではなく、積極的に表象されることによって、むしろ周縁が中心に影響力を行使しようとしている。この映像により、ヌバのエリート達は、ヌバの素晴らしさを世界に印象付け、紛争により危機的状態にあるヌバに対する国際的な援助を取り付けることに成功した。この場合、表象する強者/表象される弱者、あるいは、強力な中心/常に脆弱な周縁、という単純な図式は役に立たない。」

*1:なんといっても「タキシード姿の目玉の親父的物体」が気持ち悪い。でも、その動きは癖になる。

*2:なんとなくむかつく映像だ。ジャンクな雰囲気のアニメ映像と、耳障りな笑い声…。しかしこの部分の映像を、「テレビ漬けの生活を送る保護区のイヌイット」として理解することは間違っている。私は、The Residentsによるエピローグの文章に明らかに引きずられている。参考URL:http://illcomm.exblog.jp/5804589/

*3:いわゆる「過去」や「未開」をいつも必ずロマンティックに表象するつもりは私にはない。見ていて彼らの笑顔は気持ちよい。ただそれだけである。たとえ映像の作り手が「視聴者が気持ちよい気分になるように」と意図し、彼自身の撮影技術を駆使していたのだとしても、「いいものはいい」と私は言いたい。参考URL:http://www.asahi-net.or.jp/~cr1h-ymnk/minpaku0311.html

*4:と私は解釈してしまった。

*5:今回イルコモンズが見せてくれたのは、そういう場面のみであった。愛情生活だけでなく、もっと多様なテーマがこの映画には含みこまれているらしい。参考URL:http://www2.saganet.ne.jp/cgi-bin/takuri/ntr/maki_column/maki/1066010310.html

*6:ネットで調べてみると、どうやらイヌイットの一部には、カナダ政府と交渉した結果、自治権を取り戻した人々もいるようである。そしてこの映画はそこで撮られたものらしい。参考URL:http://www.alcine-terran.com/main/hyoukai.html