物語と事実とリアルと沖縄
首相は中国の核武装に言及し「沖縄の（米軍）基地をなくすことが考えられないのはもちろんだ」と“基地付き返還”容認を表明。日本は「米国の核の傘の下に安全を保障されている」との認識を明確にし、基地問題などで「国民を教育する」と述べた。
これに対し、大統領は具体的な返還時期については触れずに、日本の軍事力増強を「歓迎する」と表明。極東地域の安全保障面での負担について「自国以外のすべての者も防衛しているのではないということに、米国民の一部は幻滅を感じつつある」と指摘した。
その上で「日本が経済その他で責任を引き受けるならこの問題に取り組むことができる」と述べ、返還交渉の前提として軍事、経済協力分野での日本の責任分担明確化が必要との認識を示した。
日本*1の安全は沖縄の米軍基地によって保障されている。沖縄は、日本*2の平和の為に奉げられた生贄である*3。
これまで、上記のような主張は、多くの「日本人*4」によって、単なる仮説として受け取られてきたのではないだろうか？ この物語は、数多く存在する、沖縄に関する物語のうちのひとつとして、絶えず相対化されてきたのではないか？ 次のようなもっともらしい叱責とともに。
本来ならば、どうとでも語れるはずの沖縄を、どうして君は、日本と米国の共犯によって基地の島にされた地獄のような場所として、故意に悲惨に描写するの？ そうやって全てを第三者のせいにするつもり？ 甘えるなよ。
◆
甘えているのはどっちなのだろうか？ 甘えているのは、沖縄を無視し続けているお前*5だろう。そしてお前は、沖縄に甘えられるだけ甘えているくせに沖縄を、これからも無視し続けるのだろう？
Cocco先輩は、「沖縄（の人）は第三者を責めすぎ」と『Heaven's Hell』で述べていたが、責めるべきところは責めるべきだと私は思う。沖縄人は優しすぎる。あるいは、お人よしすぎる。目取真俊のように、もう少し過激になっていい。足を踏まれたら「どかせ！」と怒鳴っていい*6。
あからさまに日本の首相は、米国の大統領と、取引している。沖縄に米軍基地を固定し、そうすることによって日本*7の平和を保障してくれと、首相は米国大統領に申し出ている。冒頭の新聞記事によれば。
もはや、沖縄が日本*8と米国の共犯により地獄のような状況に置かれているという物語は、あまた存在する物語のうちの、ひとつではない。これは事実である。
この物語にリアリティを感じない人間は、どこか壊れているに違いない。
◆
そして今回のエントリーは、他ならぬ壊れた人間の一人である私自身に対して書かれたものである。
私は新聞記事を読んだ。しかし、その内容を真に受けることができなかった。記事の内容を私は、どこか、遠く離れた、自分とは全く関係のない世界に関する物語としてしか、感じることができなかった。
私は、
米軍基地のない場所に暮らすことができて幸せだ。レイプされる心配もないし、軍用ヘリが落ちてくる心配もないし。そしてそのくせ、ここから遠く離れた沖縄に米軍基地があるおかげで、他国の侵略に怯えなくてすむという恩恵はちゃっかり享受できるしラッキー。
とさえ思わない。
それほど、沖縄のことなど、どうでもいいのである。沖縄とは全く関係ないところで、明日からも、平和な日常が続いていくと考えているのである。いや、考えてさえいない。平和についていちいち考えることなどない。「そろそろ風呂に入って寝よう」とか、「明日、取引先と打ち合わせのアポとらなきゃ」とか、「あー腰のくびれたいい女とセックスしてー」とか考えているだけである。
めちゃめちゃ平和だ。反吐が出るぐらい平和だ。
日本の首相は本当にうまくやったなと思う。賢いと思う。米国領である沖縄を日本に返還させることによって、日本人になりたい沖縄人の希望に応え、かつ、日本*9の平和を確実なものとしたのだから。本当に頭いいと思う。
日本の首相は米国の大統領に、「沖縄に米軍基地を今後も存在させる」と約束している。そして、沖縄出身である私でさえ、多くの日本人と同じように、沖縄の現状に対して何か行動を起こそうとは思わない。日々の生活の忙しさにかまけて沖縄を無視し続けている。沖縄の米軍基地について行動を起こすことに関して意見を求められたならば、「日々の生活でいっぱいいっぱいの自分には全く手に負えない大きな問題です」という「謙虚な一言」で、沖縄を自分からうまく切り離す。これでは、沖縄から米軍基地がなくなることは絶対にないだろう。
どうせ沖縄から米軍基地はなくならないだろうから、とっととみんな沖縄から出てしまえばいいのだ。みんな本土に移住してしまえばいいのだ。ガリ勉して有名大学に受かって本土の企業に就職し、沖縄から脱出すればいいのだ。
それが叶わないほど貧しく恵まれない境遇にいる不幸な沖縄人は、上京して首相を○してもいいと私は思う。それは、かけがえのない個人である自分自身の命を守るために行使される、正当防衛そのものであるから。
