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不動産屋との対話

人類学 労働問題

更新料を巡り土日に不動産屋と交渉をしてきました。

交渉の結果、家賃が1000円安くなり、更新料はこの家賃の半額になりました。契約期間は2年。従来の条件(家賃65000円、更新料65000円)で2年契約をした場合と比較して、124000円を私は節約できることになりました。

更新料を無料にすることはできなかったものの、家賃が1000円安くなったことにより、私は2年間で24000円を家賃から節約することが可能となりました。今回の交渉で決まった更新料は32000円ですが、2年間の間に家賃代から節約できる24000円を考慮し、更新料をこの24000円でカバーすれば、32000円−24000円=8000円の計算により、更新料は実質的に8000円となります。従来の条件では、更新料は65000円であるため、結果的に私は57000円も更新料代を浮かすことができたといえます。

というわけで、完全に更新料を無料にはできなかったのですが、まずまずの成果を出せたのではないかと思います*1

この成果を得るまでの過程を、以下に記述します。

更新料について丁寧に質問をする

「すいません。教えていただきたいのですが、更新料についてなんですが、これは絶対に払わないといけないものなのでしょうか? というのも、最近インターネットでこういう記事を見つけまして。裁判所の判断が正しいのであれば、私は更新料を払わなくてもよいのではないかと思ったのです。更新料とは何なのか、すいませんが教えていただけますでしょうか?」

不動産屋に到着後、単刀直入に礼儀正しく上記のように切り出します。「更新料について詳しく教えて欲しい。どうして更新料を支払う必要があるのか教えて欲しい。」と、あくまでご教示をお願いします。

不動産屋に資料を提示する

「これがその資料です。この記事によれば更新料は違法と判断されているようなのです。また、同様の内容の別の記事も見つけました。」

上記のように語りつつ、紙で印刷した資料を不動産屋に手渡します。「ほら。だから無料にせいや。」と言わんばかりに偉そうな態度で渡すのではなく、「ネットの情報で混乱して動揺しているお客さん」を意識しつつ、資料を渡します。

不動産屋の話を傾聴する

おそらく不動産屋はこのような質問に慣れています。どのような場合にどのような回答を示せばよいかについて、顧問弁護士から得た情報を生かしつつ、何度もシミュレーションを重ねているはずです。また、実際にこのような質問に何度も答えてきた経験を持っているはずです。私の場合、不動産は次のように返答してきました。

「更新料は関西方面では問題になっています。でも関東ではほとんどの不動産屋で常識的に行われています。更新料が気に入らないなら、借りられる物件が少なくなりますよ。あなたはまだ若い。20代ぐらいでしょう? 社会に出たらこれが当たり前のことって分かりますよ。」

質問を別の角度から行う

残念ながら不動産屋は納得のいく回答をしてくれませんでした。そこで今度は、不動産屋が一通り喋り終えるまで待った後、別の角度から質問をします。注意すべきは、クレイマーとみなされないように、あくまで冷静に「教えてください」という態度で質問を行うことです。「でも、○○という理由で、これはおかしいですよ!」と訴えては、不動産屋もむきになってしまい、態度を硬直化させてしまいます。不動産屋の話が終わった後に私が行った質問は、以下のようなものでした。

「そうなんですか…。では、なぜこの記事とこの記事では、「更新料は無効」という判決が出ているのでしょう。すいませんが、この点を教えてくださいますか?」

不動産屋の話をひたすら傾聴する

実際、更新料には法的根拠はありません。更新料の存在は慣習にすぎません。どのような理由で存在しているのかが不明な「慣習化された制度」の存在理由を、その制度の恩恵を受けている者が、後付的に説明しているにすぎないのです。

しかしここでは、不動産屋の身になって、話をむやみに否定せずに聴いてあげることが重要です。不動産屋も、自分達が無理のある説明をしていることを重々承知しています。そのため、批判されると感情的になり、意固地になります。これでは交渉がうまく進まない可能が出てきてしまいます。なるべく穏便に話を勧めることが大切です。私の質問に対して、不動産屋は以下のように答えてきました。

「法律的に問題があるという判決がなされることもあるし、問題ないとされることもあります。たとえ法律的に問題があることでも、通念と一致しないこともある。なんでも法律どおりにしようとしては、大家や不動産屋との関係が悪くなる。法律が正しいとしても、通念が変わるのには時間がかかりますよ。」

そして不動産屋は今度はこちらに、次のような質問をしてきました。

「それにしても何故今さら更新料を問題にするんですか? 納得していたから契約書にサインしたのですよね? 契約時に説明を受けませんでしたか?」

自らが選択し得る選択肢について質問する

不動産屋は、「常識」「決まり」「慣習」といった言葉を多用してきます。「通念」もしばしば使用される魔法の言葉です。よく分からない謎の言葉ですが、これは要するに「前提になっているから疑わずに受け入れよ。皆もそうしているのだから。」という意味です。これ以上質問してくれるな。という意味でもあります。

そして最終的には、「契約書にサインしたんだから守ってよ」という形でお客を説得しようと迫ってきます。

「契約書にサインしたんだから守ってよ。」というセリフは、なかなかひどい言葉です。責任を一方的にお客になすりつけるセリフです。圧倒的に、貸す側が賃貸契約に関する情報を持っているにも関わらず、契約時の説明では、それらの情報がお客に伝えられることはありません。

  • 「この契約は法律的に問題があると裁判所によって判断されることもある。」
  • 「この契約を巡っては、○○という観点から、廃止を求める声が上がっている。」
  • 「東京都条例では、このような料金は本来は貸主が負担することになっている。」

上記のような助言を不動産屋はお客にしません。「お客が物件を選択するにあたって有用となるような情報」を、不動産屋は契約時にお客に提供してはくれません。「何も情報を開示しない」という仕方で、不動産屋はお客の選択に影響を与えます。「サインをさせる」という方向で影響を与えます。

確かに、お客は契約書にサインをしてしまっています。しかし、そもそも契約を交わした当時は「更新料は当たり前のものだ。契約書に記載されているぐらいだからいかがわしいものではないはず」と思ったり、「更新料って何だろう。嫌だなあ。でも契約書の内容を受け入れないと、部屋を貸してくれないんだよな。だからここは違和感を感じつつもサインするしかないんだよな。」と観念したりしてて、お客は契約書にサインをしていたはずです。

もしかしたら、何も考えず事務的にサインをするお客もいるかもしれませんが、情報を隠蔽しているという点で、不動産屋には問題があります。問題がある可能性を孕んだ契約内容であることを知っていながら、彼らは契約を結ばせています。これが最も問題です。

不動産屋は自分達がしていることに多少は罪悪感を感じていると思われます。だからこそ、感情的に反論することは避けたほうがいいかもしれません。罪の意識が関与しているからこそ、それを否定するために、不動産屋は頑なになってしまうかもしれません。

さて、「契約書にサインしたんだから守ってよ。」という問い掛けに対してですが、私は特に返答をしませんでした。その代わり、「現時点の自分が採用することが可能な選択肢」について質問をしました。例えば私は、以下のような質問をしました。

「分かりました。現時点で私がとれる行動は、4つということなのですね。1つは「更新料を払って現在の条件で契約を更新すること」。2つ目は「更新料を支払わずにこのまま住み続けて法定更新を行うこと」。3つ目は「更新料の合理性を巡って裁判を起こすこと」。4つ目は「別の物件に引っ越すこと。」これらのうちから1つを選ぶしかないということなんですね?」

挑発的に話すのではなく、「無知なのでこの場合自分にはどのような行動が可能なのかが分からずとにかく頭を整理しています」という態度で、上記のように喋ることがポイントです。

裁判という言葉の威力?

もともとは、なんとなく行った上記のような選択肢に関する質問だったのですが、なぜか不動産屋はこの時点から、こちらにとって有利な条件を提示してくるようになりました。裁判という言葉が登場したので、もしかしたら不動産屋は次のように考えたのかもしれません。

「厄介になってきた。このお客、なんだか冷静で天然で何するか分からない。もしかしたらあまり抵抗もなく本当に訴えてくるかもしれない。このご時勢、実際に裁判をしたら、負ける可能性もある。勝つかもしれないが、負けるかもしれない。負けた場合はこちらが痛手を負う。裁判費用は全部こちらが負担しないといけないし、第一面倒だ。客が次々に訴えてきても困る。ここはひとつ、こちらから良い条件を提示してみよう。」

事実はどうなのかは分からないのですが、不動産屋は次のような条件を提示してきました。

  • 更新料を半額にする。

困った顔をして再度更新料の存在根拠について質問する

ここが微妙なところなのですが、条件を提示してきた不動産屋に対して私は、次のような質問をしました。

「あのう。更新料の値段ってそんなに簡単に半額にできたりするんですか? この内訳は結局何なんですか?」

同じ質問を私は繰り返しています。しかしだからと言って私は「しつこい人」「物分りの悪い人」ということにはなりません。なぜなら不動産屋は、更新料の値段をいとも簡単に自分で変化させてしまったために、今度は「更新料をいきなり半額にできる理由」を説明しなければならなくなったと感じてしまうからです。

不動産屋は、苦しそうな顔をして、次のように答えてきました。

「更新料の内訳は、更新時の契約書作成料金です。例えば、インク代とかパソコン操作代とか印刷用紙代です。いわゆる手数料です。」

引き続き困った顔をして質問をする

更新料の内訳を不動産屋は喋ってくれました。私は今度は次のような質問をしました。

「インク代、パソコン操作代、電気代、印刷代ってそんなにしませんよね…。ちょっと高くないですか? インク代なんて、1000円もしないように思います。」

上記のような質問をしつつ、私は終始訝しげな顔をし続けます。ここでも重要なのは感情的にならないことです。あくまで冷静に合理的に、不思議な点を指摘して、困った顔をすることが重要です。すると不動産屋はとうとう次のような提案をしてきました。

  • 家賃を1000円値下げする。
  • 更に更新料もこの家賃の半分にする。

まとめ

その後私は、「2年契約ではなく4年契約にすることは可能ですか? そのほうが更新料を1回だけ支払えばいいことになるからです。」という質問をしてみたのですが、不動産屋が「これ以上は譲れません。」と言うので、この辺であきらめることにしました。

だいたい上記のような流れで私は、そこそこ満足のいく成果を得られた訳ですが、実際のところ、どのような要因が功を奏してこのような成果が得られたのかはよく分かりません。

私は話の合間に、「それにしても更新料って不思議な存在ですね。いっそのこと家賃に含めてしまえばいいのではないでしょうか? そのほうが後でお客に文句言われなくて良いと思いますよ。」と不動産屋に無邪気な提案をしたりもしました。

また、「もしかしたら更新料は、不動産屋の貴重な収入現なんじゃないですか? つまり、大家と不動産屋の取り分が不当に設定されているために、不動産屋は収入源を更新料に頼らざるを得ないということではないですか?」と、不動産屋と大家とお客の間でお金が不動産屋に不当に低めに流れている可能性などを示唆して、「不動産屋もつらいのだ」ということを強調したりもしました。

もしかしたら、私自身がこれまで一度も家賃を滞納したことがなく、日頃から礼儀正しく不動産屋に接していたことも、今回の成果につながっているのかもしれません。実際、不動産屋はしきりに「あなたは真面目だし家賃もしっかり期日に納めてくれるので、できればずっと住み続けて欲しい。」と褒めてきました(不動産屋が私をおだてているだけかもしれませんが)。

あるいは、単に不動産屋が比較的正直で良い人だったために、私は今回のような成果を得られたのかもしれません。

*1:当初は引越しを考えていたのですが、現在住んでいる街が気に入ってしまったため、引越しは取りやめることにしました。川が近くにあるので、大地震が起きたらどのような災害に見舞われるのか心配ですが、引越しに際して50000円前後の礼金を新たに支払う必要はなく、家賃もいくらか安くなったので、そこそこ満足しています。