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ある商店の閉店

人類学 沖縄問題

「大型ショッピングセンター(モール)の進出により、地元の商店が閉店を余儀なくされる」という話をよく耳にする。あるいは「大型レンタルチェーン店の進出により、地元の小さなビデオレンタルショップや古本屋が閉店に追い込まれる」という話をよく聞く。

今回、沖縄に帰省した際に、実家の近所半径約2Kmを歩いてみた。小学生の頃から利用していた商店が少なくとも3軒、閉店していた。小学校の前にあった万理崎商店。小学生の頃、ノートや消しゴムなどの文房具をこの店で買った。バス停のそばにあった新垣商店。学校帰りにチューチュー等のお菓子をこの店で買った。実家のすぐそばにあるハイツストア。この店で日用品を頻繁に買った。これらの店がすべて閉店していた。

視線を、実家から約1Km離れた、製糖工場跡の敷地に移す。そこには5年ほど前から、いわゆる大型ショッピングセンターが存在している。

冒頭で言及した仮説の正しさは、どれほどのものなのだろうか。この仮説は現実をどの程度正確に説明できているのだろうか。そしてこのことを判定するためには、どのようなデータが必要となるのだろうか。

小さな商店が3軒とも潰れた理由として、思い当たるのは今のところ下記の3つ。

  1. 大型ショッピングセンター(モール)の進出により客が減り、店じまいを余儀なくされた。
  2. 経営者の高齢化に伴う体力の低下により、店じまいを余儀なくされた。
  3. 上記2つの要因により、店じまいを余儀なくされた。

そして、上記の3つの仮説を検証するために必要と思われるデータとして、次の5つが想起できる。

  1. 大型ショッピングセンター(モール)の進出前後における町の人口(前後20年)。
  2. 今回つぶれた各商店の半径2km以内において、新規に開店した他の商店の数とその場所。
  3. 大型ショッピングセンター(モール)の進出前後における、各商店の客数と売り上げ(進出前後における客数と売り上げの値を比較した結果、進出前にくらべて進出後の客数と売り上げの値が低ければ、商店は大型ショッピングセンター(モール)の進出により閉店に追い込まれたといえそうである。)。
  4. 商店の経営者の要介護度(高ければ高いほど商店がつぶれる可能性が高いと考えられる)。
  5. 商店の経営者の家族構成(家族が多ければ多いほど商店を存続できる可能性が高まると考えられる。子どもや孫が多ければ、店番を子どもがするので、店が存続する。あるいは嫁がいれば、嫁が店番をするので、店が存続する。)。

冒頭で言及した「大型ショッピングセンター(モール)の進出により、地元の商店が閉店を余儀なくされる」という話の信憑性については、私はよく分からない。私は、議論するうえで参照すべきデータを持っていないので、この仮説の正しさを判定することができない。

ところで、この仮説は、「地元の商店の淘汰は、商品の多様性を破壊し、商品の均一化、ひいては価値観の均一化を招く。」「大型ショッピングセンター(モール)の収益は地元には還元されない。」「大型ショッピングセンター(モール)は、利益優先で経営されており、収益が望めなくなればすぐに撤退するので、地元の商店が破壊されたあとに撤退されると、地元の人々の生活にダメージを与える」という批判と、たいていセットで語られる。

この批判の是非についても、参照すべきデータを私は持っていないので、判断を下すことができない。

つぶれる店は、企業努力を怠ったからこそつぶれたともいえそうだし、大型ショッピングセンターができたことで得られるメリットもあると考えられる。これらもあわせて考察に含めなければ、安易に大型ショッピングセンターを批判することはできないのではないかと現時点では考えている。

大型ショッピングセンターの進出との関連についてはさておき、小さな商店がつぶれてしまうことを、私はとても残念に思う。

もしかしたらこの予測は当てはまらないかもしれないが、大型ショッピングセンターで、レジの人に、「あのう。この近くにユタをご存知ですか?」と質問したら、かなりの確率でいぶかしがられるのではないだろうか*1。なんとなく、大型ショッピングセンターのレジの人は、私の質問に答えてくれない気がするのである*2

実家の近所の、つぶれてしまった商店には、私にユタ*3を紹介してくれた商店も含まれていた。石垣島でユタの調査をしていたときも、私は迷わず地元の商店に行き、そこで働いていた地元のおじさんに「この近くにユタはいらっしゃいますか?」と尋ねて、ユタの居場所を特定していた。小さな商店がなくなってしまえば、もうこのアプローチは使えない。

研究者の数だけ、調査地に入り込んでいく方法はあるのかもしれないが、私がよく使う手は、酒場や小さな商店といった「公共的な空間」を探し出し、そこにいる地元の人に単刀直入に質問するというものだ。

現地調査に欠かせないチャンネル・窓口を確実に失ってしまったことを、私は悲しく思う。そして、そこにいけばいつもその存在を確認できたものがなくなってしまうことも、単純にさびしい。

*1:レジの人が、地元の中年女性であれば、ちゃんと質問に答えてくれるかもしれない。しかし、若い人では駄目であろう。

*2:繰り返すが、この予想は間違っている可能性が高い。沖縄の大型ショッピングセンターであれば、そこで働くレジ打ちの人は、地元で生活する、地域に根ざした中年女性であり、私の質問に快く答えてくれる可能性が高い。ただ、大型ショッピングセンターは、なんというか、人と人の距離が遠い気がして、せわしなくて、都会の嫌な部分が忍び込んでいそうな気がするのである。もちろん、都会のクールな距離感は嫌いではない。むしろ心地よい。しかし、調査をする際には障害になる。

*3:本業はてんぷら屋。