ブックカバーチャレンジ3日目:明治柳田國男全集26 明治大正史世相編

3日目。『柳田國男全集26 明治大正史世相編』著者:柳田國男

大学で受講した民俗学の講義の課題図書でした。

講師の名前は重信幸彦。昭和初期の怪しい弁士のような語り口の重信先生と共に、手に汗握りながら柳田の思考を追いました。

この本で柳田國男が取り組んだ課題は、「農村が貧困に陥るメカニズムの解明」です。

柳田は、貧困に喘ぐ農村を、「新たに創出されたを満たすために貨幣経済に巻き込まれ、自給自足の術を喪失していった結果」として描き、その過程を、当時発行されていた様々な新聞から事例を列挙しながら、丹念に明らかにしていきます。

例えば、衣服。

かつて農村では、麻の服が着用されておりました。麻は農村で調達可能である上に、丈夫で長持ちする素材であり、農村の誰もが自分で作ることのできる生活必需品でした。
しかしやがて、麻の服は、木綿の服に取って代わられます。

なぜか。

麻は染めにくく頑丈で長持ちしますが、木綿は染め易くすぐに痛むからなのでした。つまり、農村の人々は、「様々な色彩を身に纏いたい」という欲望にいつしか絡め取られ、痛めばそれを理由に新たな色の木綿の服を買い求め、やがて麻で服を作る技術を自発的に捨て去ってしまった、のでした。

こうなると、木綿の服を買うために、農村の人々は今までは存在していなかった出費を行うことになり、自給自足から遠のいてしまいます。

柳田は、衣服やそれを作る技術だけでなく、農村の自給自足生活を成り立たせていた他の様々な事物とそれを作る技術にも言及していきます。

そのような仕方で、農村の生活が貨幣なしでは成り立たなくなってしまう過程を、外堀を少しずつ埋めていくかのように、膨大な客観的データを駆使して、じりじりと着実に論証していきます。

かつては、自給自足的な自立した社会であった農村が次第に疲弊していく様を、漢文体の文章で説得的に記したこの本は、大学入学間もない18歳の私に、学問の凄みを、これでもかと実感させてくれたのでした。