PB2120_初等社会科教育法_1単位目



1.今日の初等社会科の在り方と課題に関連させて、初期社会科の狙いと指導法について以下より詳述する。

 今日の初等社会科は、「書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力」であるPISA型読解力の育成を念頭に置く。その上で、「平和で民主的な国家・社会の形成者としての自覚をもち、自他の人格を互いに尊重し合うこと、社会的義務や責任をはたそうとすること、社会生活のさまざまな場面で多面的に考えたり、公正に判断したりすることなどの態度や能力」である公民的資質の養成を目的とする。各学年の目標の系統は、理解・態度・能力の3つに大別され、これらの統一的な達成が公民的資質の養成に必須とされる。2008年には、①社会生活や国土に対する理解と自然災害の防止の重要性についての関心を深めること、②基礎的・基本的な知識・技能を活用して学習問題を追及・解決できるように、各学年の段階に応じて観察・調査したり、地図・地球儀・統計・年表等の資料を活用したり、社会的事象の意味や働き等を考え表現したりする力を育てること、の2点に依拠して学習指導要領が改訂され、「考えたことを表現する」等の文言が新たに追加された。

 初等社会科の上記特徴は、初期社会科の目指した狙いと指導法を受け継ぐものといえる。「考える力」や「自他の人格の尊重」や「公民的資質」等の考えは、元来初期社会科が重視したものであった。軍国主義的思潮や国家主義的傾向に流される国民を作った戦前教育への反省に基づき、戦後の教育関係者らは、道徳の押し付けや画一的な指導に陥った形式主義的な修身教育を批判し、「行ふことで学ばせる」ことを主軸にした経験主義教育である公民科教育構想を打ち出す。これを踏襲する形で誕生したのが初期社会科である。初期社会科では「社会生活の中にあるいろいろな種類の、相互依存の関係」の理解が重視された。同様に初等社会科においても、社会を「他の人々と共に自分が生き生かされている関係として追及して、それを自分の生き方や実践行動につなげていくこと」が重視される。

 今日の初等社会科には、初期社会科の志を継承し、①社会との関わりの中で共存・共生する力、②人権意識に立って共存・共生する人間関係力、③生活する環境に主体的に関わり自己変革と環境を改革する力、④創造的問題解決力を育成するという課題がある。教師には、アクティブ・ラーニングを用いて児童同士の交流と議論を促したり、児童の生活経験と学習内容の関連を授業で分かりやすく示したり、「取り入れた情報を単に発信するのではなく、KJ法等を活用して新しい問いや視点を導く主体性や創造性」を児童に培ったりする工夫が求められている。

2.初等社会科が育むべき学力の特徴を学習形態と総合的な学習の時間と体験学習に関連させて以下に詳述する。

 初等社会科が育むべき主な学力は、問題解決能力である。この能力は、地理・歴史・公民等の分野における本質的課題を見極め、これと関係する情報を資料や取材や体験から収集して総合し、そこから導出した結論・主張を現実の社会関係の中で実現させる能力といえる。この能力は、知識・思考技術能力と評価能力を中核とする自己教育力に支えられており、学校でのみ通用する知識である学校知ではなく、教師でさえ自覚できない課題としての分からない未知の、授業での追究で日々鍛えられる。

 総合的な学習の時間では、上記の営みが探求学習という名の下で行われている。この科目では、児童が一人もしくは集団で五感や身体を用いて調べ、観察し、課題を解決する。このような体験的学習は、本来は初等社会科で行われるべきものである。なぜなら初等社会科は、「なすことによって学ぶ」ことを重視する、体験に基づく教科として構想されたものだからである。初等社会科において重視される基礎・基本とは、範例学習における精選された単一の事例のようなものとは異なり、生活体験の中で生じる関心や意欲に基づいて児童の中で総合される知識を指す。初等社会科は、知識の詰め込みから袂を分かち、基礎・基本を重視した本来の姿を取り戻すべきだといえる。

 1991年に文部省が提唱した新学力観は、上記の基礎・基本の重要性を訴えるものであった。しかしそれは、児童の意欲や関心を育てる活動・体験にのみ重きが置かれ、児童が実際に身に付ける知識が無視されたことで、活動主義として批判されることとなった。初等社会科の実践でも、この点への配慮が必要である。例えば、プロジェクト法のような、何らかの活動を含んだ学習形態を採用する場合、その活動自体の目的化を警戒するべきである。

 授業の進行には一定の学習形態が不可欠であり、これらにはそれぞれ良し悪しがある。初等社会科はこの点にも留意するべきである。例えば、詰め込み教育の象徴と捉えられがちな一斉授業には、教材に対する多種多様な意見を相互作用させつつ深く吟味し、より深い認識へと高めていく集団思考が可能な側面もあり、極めて有用である。一斉授業の良い面を引き出し、上記の集団思考が実現できる豊かな人間理解に基づく学級集団を作るためにも、教師は生活指導にも注力する必要がある。

参考・引用文献

青木秀雄著 『洞察力を培う初等社会科教育法』 明星大学出版部、2016年、p.61‐120

捕捉

「論じなさい」という言い回しが課題にありますが、このレポートは要約型レポートです。

要約型レポートの書き方については、下記が参考になります。

それにしても、私はこのレポートで社会科について学習する前は、社会科を「社会についての勉強」程度にしか、理解しておりませんでした。

軍国主義との決別。この思想が社会科に流れていることを知り、社会科に対する見方が変わりました。

戦後間もない頃の教員達の、熱い何かの気配を、感じずにはおれません。