PA2030_教育心理学_2単位目

課題
学習意欲(動機付け)を支えるメカニズムに関する様々な理論に基づき、児童生徒の学習意欲を向上させるための教育実践の在り方について述べなさい。


 

 学習意欲(動機づけ)には、外発的動機づけと内発的動機づけの2種類がある。前者は、個人に行動を生じさせる目標が個人の外部に存在し、何らかの行動が行われている場合に働くものである。一方、後者は、行動自体が快楽である場合に働くものである。以上のことから、学習意欲を向上させるには、自発的な学習を可能にする内発的動機づけを働かせることが有用といえる。

 外発的動機づけと内発的動機づけの関係についてであるが、両者には、後者が前者へと、前者が後者へと変化するという関係がある。

 まず、内発的動機づけが外発的動機づけに変化することについてであるが、このことはレッパーらによる次の実験で確認されている。絵を描くことが好きな幼児を3群に分け、第1群には「絵が上手に描けたら賞状を与える」という約束をした上で絵を描かせて賞状を与え、第2群には上記の約束無しに絵を描かせて賞状を与え、第3群には約束も賞状の贈与も行わないで絵を描かせた。すると、約1~2週間後の自由時間において、第2群と第3群の幼児と比べて、第1群の幼児には、自発的に絵を描く時間の大幅な減少が認められたのである。この実験は、「賞状という報酬が貰える」という期待が生じたことで、内発的動機づけが低下し、外発的動機づけが高まったことを示している。興味深いことに、賞状ではなく、賞賛のような言語的報酬が期待される場合には、上記の現象は生じず、むしろ内発的動機づけが高まる。これは、認知的評価理論によると、報酬には、制御されている感覚を与えて自己決定感を低下させる制御的側面と、有能であることを伝える情報的側面と、無能感をもたらす非動機づけ的側面の3つがあり、制御的側面や非動機づけ的側面が作用する場合には内発的動機づけが低下し、情報的側面が作用する場合には内発的動機づけが高まるからとされる。

 次に、外発的動機づけの内発的動機づけへの変化についてであるが、これは、当初は外発的動機づけがなされていた行動が、個人の発達段階や認知過程や動機付け指向性(内発的動機づけ指向か外発的動機づけ指向か)により、内発的動機づけがなされた行動へと変化していくことを指す。

 では、どのような場合に、外発的動機づけは内発的動機づけへと変化するのであろうか。この問いに答えるにあたり、アトキンソンが提唱する「期待‐価値モデル」が参考になる。アトキンソンは、高い目標を自ら立てて達成したいという動機を「達成動機」と定義し、成功できそうだという思いを「成功の主観的確率(期待)」と定義し、成功により生じる喜びや満足を「成功の誘引(価値)」と定義し、失敗を避けたいという動機を「失敗回避動機」と定義した。その上で、「達成傾向(意欲的な行動)=(達成動機-失敗回避動機)×成功の主観的確率(期待)×成功の誘引(価値)」という式を考案した。この式から分かることは、意欲的な行動(内発的動機づけ)の高まりは、課題の捉え方に大きく左右されるということである。

 上記の認知的機序に関連した事柄として、セリングマンは、制御不可能な事態に遭遇した個人にはあきらめの認知が形成され、簡単な課題に対してであっても課題解決力が低下することを明らかにしている。この現象は「学習性無力」と呼ばれており、学習意欲を向上させるには、状況を自分で制御できる自信を学習者に付けさせることが必須であることが見て取れる。

 ただし、制御不可能な事態に遭遇した際に学習される無力感の程度には個人差がある。ここには原因帰属の仕方の違いが作用している。制御不可能な事態に陥った原因を個人が自らの内部(努力や能力等)に求めた場合(内的帰属)、その個人は無力感を学習する。一方、原因を個人の外部(教師の偏見や課題の難しさや運等)に求めた場合(外的帰属)、その個人は無力感を学習せずに済む。このことから、個人の学習意欲を高めるには、制御不能な事態に際しては自分に原因を求めすぎないことや、制御不能な事態に遭遇すること自体を避ける等の工夫が必要だといえる。

 学習意欲の向上には、バンデュラが提唱する自己効力の考え方も欠かせない。バンデュラは、行動によって得られる結果に関する予期を「結果期待」と呼び、この結果を得るために必要な行動を行えることに関する予期を「効力期待」と呼ぶ。そして、自分自身に知覚される「効力期待」を「自己効力」と呼んだ。例えば、毎日勉強すれば成績が上がることが分かっており、勉強を継続できるという自信がある個人の場合、この人の自己効力は高いといえる。自己効力は、自ら行動して成功することで最も高まるものである。

 以上、学習意欲を支える機序に関する諸理論を概観してきた。これらに基づいて、児童生徒の学習意欲を向上させる教育実践の在り方を述べるならば、次のような手順と内容のものになる。①どのような行動がどのような結果をもたらすのかを教師は児童生徒に丁寧に説明し、②最初は難易度の低い課題に自力で取り組ませて、達成できたら、「やればできる」等の言葉で褒めることをし、状況を制御できる自信を持たせ、③徐々に課題の難易度を上げていく。これが児童生徒の学習意欲を向上させる教育実践の在り方であると私は考える。

捕捉

このレポートも典型的な要約型レポートです。

要約型レポートの書き方については、下記が参考になります。

動機付けは、実際に教育現場に教師として立った時に直面することになる、現実的な話題です。

学校の授業にすんなり参加してくれる児童がいる一方で、授業を妨害したり、教室から逃げ出したりする児童もいます。

教育を受ける権利を児童は持っていますが、それを行使するかしないかの判断を自ら行って学校に通う児童は、ほとんどいません。

両親や周囲に促されて、学校に通う児童がほとんどです。

そのため、学校での授業は児童にとっては「何か知らないけど我慢して受けなければならないもの」になっていると考えられます。

また、家庭の状況や発達障害などの児童本人ではどうすることもできない要因によって、児童が落ち着いて授業に参加できないこともあります。

このような様々な状態の児童に対して、もしも一律に教師が動機付けを行うと、児童から反発や抵抗を受けてしまう可能性があります。

児童に見えている世界を教師は児童の肩越しから見るように努め、児童が自立と社会参加を達成しやすくなる助けとなるような、児童にとって最も抵抗のない、関わり方・影響の与え方を考える。

このような接し方が、長期的に見て、教師にも児童にも実り多いと、私は考えています。