PB3070_道徳教育の指導法(小学校)_1単位目



1.現行の『小学校学習指導要領』における道徳教育

 平成20年3月に公示された『小学校学習指導要領』(以下『要領』と略す)において、道徳教育の内容は「第1章 総則」と「第3章 道徳」にて論じられている。今回の改訂で注目すべき点は、「道徳教育とその他の諸活動(各教科や外国語活動や総合的な学習の時間や特別活動や家庭や地域社会)との関連・連携」と「道徳教育の企画・調整・連絡・助言等の役割を担う道徳教育推進教師の設置」が明記され、道徳教育が学校教育全体を通じて行われる「要」として位置付けられたことである。以前から道徳教育は、学校の教育活動全体を通じて行われるものとされてはいたが、今回の改訂は、道徳教育の重要性がさらに強調されたものといえる。

 道徳教育において育成される道徳性についてであるが、この詳細は文部科学省編の『小学校学習指導要領解説 道徳編』(以下『解説』と略す)において、次の3点に分けて記述されている(佐々井・岩木・森下、2015)。①よりよく生きる力を引き出すこと(よりよく生きようとする力を諸能力の発達に合わせて自らが引き出していくこと)。②かかわりを豊かにすること(体験等の広がりに合わせて豊かなかかわりを発展させていくこと)。③道徳的価値の自覚を深めること(認識能力や心情等の発達に合わせて、道徳的価値の自覚を深められるようにしていくこと)。また、『要領』の「第3章 道徳」では道徳性を構成する諸要素として「道徳的な心情、判断力、実践意欲と態度」が明記されている(佐々井・岩木・森下、2015)。

 上記のような道徳性を育成するにあたり、『要領』では以下の3点が配慮事項として示されている(佐々井・岩木・森下、2015)。①児童の発達段階に即して、日々の生活の中で自分を振り返り、自分のよさに気付き、社会的自立に向けてよりよい生き方をしようとすることの重要性の強調。②集団宿泊活動等の集団活動を通しての道徳性の育成。③発達の段階に即した指導の充実。

 なお、評価方法としては、道徳の教科を数値で評価することは困難であることから、『解説』では次の5つの方法が示されている(佐々井・岩木・森下、2015)。①観察や会話による方法。②作文やノートなどの記述による方法。③質問紙などによる方法。④面接による方法。⑤その他の方法(具体的な事例の検討等)。

 以上で概観してきたように、『要領』において道徳教育は「要」として位置付けられる重要なものであるため、現場の教師は児童の実態に応じて道徳教育の方法を創意工夫していくことが強く求められているといえる。

2.昭和20年代以降の道徳教育の変遷

 戦後の日本では、軍国主義的な思想や教育の排除を目指す連合国軍総司令部により、修身科が廃止された。昭和22年3月31日に公布された「学校教育法」や、その直前に完成した『学習指導要領一般編(試案)』によって戦後教育の新体制が整うと、教育勅語も廃止された。そして、社会科が創設され、道徳教育はこれに融合された。

 昭和20年代には、社会科に統合されて弱体化した道徳教育を巡る議論が活発化した。昭和26年1月には教育課程審議会が「道徳教育振興に関する答申」を行い、文部省はこれに基づいて「道徳教育振興策」と『道徳教育のための手引書要項』を作成した。これらにおいて道徳教育は、学校教育全体で行われるべきものとされた。

 日教組による反対がありながらも、昭和32年11月には、教育課程審議会の中間報告にて道徳の時間の特設が発表され、翌年3月に答申が出され、4月に実施された。これにより戦後日本の道徳教育は新たな段階に入る。

 昭和30年代の日本は経済的発展を志向し始めた頃であった。『小学校学習指導要領』(以下『要領』と略す)の昭和43年の改訂はこの状況を反映しており、例えば、科学技術の発達を期待して算数や理科の難度が高められている。道徳教育については内容の整理統合が行われた。

 続く昭和40年代は、経済的な成功を収めた日本に対する疑問が、公害や石油危機等を踏まえて生じ始めた時期であった。教育においては、受験競争や校内暴力等の問題が顕在化し、『要領』は「ゆとり」を重視して昭和52年に改訂された。道徳教育に関しては、実践力の育成がより強調された。また、儀式の際の国旗掲揚が規定され、日本人としての自覚が促されるようになった。

 平成元年の『要領』の改訂では、道徳教育において自律的な道徳性の育成が強調された。また、「生命に対する畏敬の念」と「主体性のある日本人」の2点が目標として追加された。これは、情報化・国際化・価値観の多様化等の変化が激しい時代や、児童生徒の自殺・いじめ・非行等の問題行動の増加を踏まえたものである。

 平成10年の『要領』の改訂では、「生きる力」の育成と直結した「総合的な学習の時間」が設定された。道徳教育については、「体験活動を生かすこと」や「家庭・地域との連携」や「未来に向けて自発的に課題に取り組み共に考えること」の3点が方針とされ、現場の教師によるより一層の創意工夫が益々求められているといえる。

参考・引用文献

佐々井利夫・岩木晃範・森下恭光 『道徳教育の指導法』 明星大学出版部、2015年、p.17‐41、p.124‐135

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