PB3070_道徳教育の指導法(小学校)_2単位目



 小学校高学年を対象とした道徳の時間において、教師として私が展開したい学習内容を以下に記述する。

 まず、「ねらい」についてであるが、道徳の時間は「内なる自己と対話する時間」(佐々井・岩木・森下、2015)であるとともに、「感想発表の後で友達の感じ方や考え方とどこか違うのか、友達があのように捉えたわけ等を話し合う中で他者理解を図る」ものであることを踏まえて(佐々井・岩木・森下、2015)、「他者と対話する方法を学び、それを用いて他者を理解することができる」ということを「ねらい」として定めたい。

 道徳の時間では、道徳的価値の自覚を学習者に促すために、読み物教材が用いられるが、私の担当する道徳の時間では、教材の内容を重視すると同時に、教材をきっかけとして位置付け、その教材に対して各学習者が考えたことを表現させ、これに関する話し合い活動も重視する。その際、対話の仕方に関する知識を学習者達に伝えることで、「他者と対話する方法を学び、それを用いて他者を理解することができる」という「ねらい」の達成を目指す。この「ねらい」は、いわゆる言語活動の充実と密接に関連しており、「ねらい」を達成することで学習者が身に付ける能力は、変化の激しい現代社会を生き抜くうえで欠かせない武器となる。なぜなら、対話や他者理解に必要な技能を習得できれば、生きていく過程で学者者が必ず出会う、生育環境や価値観や文化の異なる他者との間の交渉や折衝を、首尾よく行うことができるようになるからである。

 私が担当する道徳の時間の具体的な「学習内容」についてであるが、例えば、教材として「ごんぎつね」を取り上げるとする。この教材を読み終えた後で、学習者に4~5名の小集団を作ってもらい、この小集団内で教材に関する主張を列挙してもらう。その際には、「なぜそう言えるの?」と質問し、主張に必ず根拠を付与するように指示する。

 例えば、「ごんを撃った兵十は酷い」という主張だけでなく、「なぜなら、ごんは兵十の家に食べ物を届けていたから」等のような根拠を付与させる。また、別の小集団で「ごんは撃たれても仕方ない」という主張が出されたならば、「なぜなら、過去にごんは兵十に悪戯をしていたから」等のような根拠を付けさせる。もちろん、「ごんは兵十に撃たれて幸せだった」という意外性のある主張も許されるが、根拠を付与できなければ、対話が成り立たないので、たとえ興味深い内容の主張であっても、根拠のない主張は却下とする。なお、この場合には、「なぜなら、兵十に悪戯して兵十の母親がうなぎを食べられずに死んだのは自分のせいだと、ごんは罪の意識を感じており、兵十に撃たれることでその罪悪感から解放されるから」等のような根拠が提示できれば良い。

 上記のような主張と根拠を小集団ごとに列挙させた後、今度は小集団ごとにそれらを発表させ、黒板にそれらを書き取る。そして、黒板に記載された主張と根拠のペアを眺め、根拠が根拠足りているかを学習者全員で吟味する。例えば、「ごんを撃った兵十は酷い」という主張と「なぜなら、ごんは兵十の家に食べ物を届けていたから」という根拠のペアに対して、「ごんは確かに兵十の家に食べ物を届けていたが、過去に食べ物を兵十の家から盗んでいた。つまり、ごんは兵十から盗んだものを返していただけといえるので、特に良いことをしていたわけではない。だから兵十がごんを撃っても酷いとはいえないのではないか?」という質問がなされたならば、この主張と根拠のペアを発案した小集団の学習者達は、この質問に答えなければならない。もしも返答に窮している様子であれば、私から「しかし、ごんは自分のこれまでの行いを反省していたからこそ、食べ物を兵十の家に持っていっていたので、その反省の心を完全に無視することはどうして許されるのであろうか?」という切り返しの質問を助言する。このようなやり取りを、根拠に対する疑問が解消し、他の学習者達を納得させることができるまで続ける。

 以上のようにして、「ごんぎつね」という教材を通して、学習者に、「主張には根拠が必須であり、さらに、根拠が根拠足りているかを吟味する必要がある。これらを怠ると、対話が成立せず、他者理解がお互いに不可能になる」ということを肌で感じさせることができるであろう。そして、上記のような経験を通して、「他者と対話する方法を学び、それを用いて他者を理解することができる」という「ねらい」が達成されると考えられる。

 最後に、「評価」についてであるが、「主張を行うこと」「主張に根拠を付与すること」「根拠が根拠足りていることを他の小集団の学習者に納得してもらえたこと」の順番で、高い評価を付与したい。私の担当する道徳の時間は、難度の高いものといえる。しかし、変化の激しい今後の社会において他者と交渉・対話して生きていくために必須の技能・言語運用能力が、他者との対話と他者理解の実践を重視した、本論で記述してきた学習内容の道徳の時間を通して、学習者に着実に身に付くものと私は考える。

参考・引用文献

佐々井利夫・岩木晃範・森下恭光 『道徳教育の指導法』 明星大学出版部、2015年、p.43、p.47

捕捉

このレポートは、指導案型レポートと小論文型レポートを足して2で割ったようなレポートです。

課題に、「ねらい、学習内容、評価を中心に要点をまとめること」とあるので、「ねらい」→「学習内容」→「評価」の順に文章を書くと良いです。

レポート前半で、道徳の時間の定義を行い、この定義を「ねらい」の話につなげています。

「道徳の時間」という言葉は、詳細な説明が必要なキーワードではないのですが、定義を行うことで、レポートの書き出しをスムーズに行うことができます。

「ねらい」を決めて、それに合った教材を探すのが、このレポートの難しいところです。この点が、小論文型レポートと似ています。

小論文型レポートの書き方については、下記の記事で少しだけ触れています。