PL4030_重複障害・LD等教育の 理論と実際_2単位目

課題
1.発達障害児におけるSST(社会的スキル訓練)の必要性と方法について述べよ。
2.重度重複障害、重症心身障害児の定義と実態把握、コミュニケーション支援の方法について述べよ。



1.発達障害児には、社会生活や人との関係で適切な行動を取るために必要なソーシャルスキルの訓練(以下、SSTと略する)が必要不可欠である。なぜなら、発達障害児には、他者との関係を成立・維持する社会性が身に付き難く、このことに起因した自信喪失や孤立感や意欲低下等の二次障害が生じるからである。これらは引きこもりや非行等の不適応行動に発展することもあるため、社会性の躓きを緩和し、問題行動の改善に有効なSSTは、発達障害児に必須の学習事項だといえる。

 SSTの基本的な流れは、①参加メンバーの実態把握、②目標の決定とエクササイズの選定、③指導プログラムの実施、である。以下より、これらの詳細を述べる。

 まず、①についてであるが、これはSSTに参加する子どもに不足するスキルを、保護者や担任からの情報収集やチェックリストの利用により、特定する作業である。

 次の②では、把握した情報から目標を立てて、それに沿ったエクササイズを選定し、指導プログラムを作成する。これを、SSTの進行や役割分担(進行担当のメインと子どもに個別的に対応するサブの決定)や備品等に関する打ち合わせも含めて、複数の指導者で行う。エクササイズは複数行われるものであり、単純な内容のものから複雑な内容のものへ段階的に実施できるようにする。例えば、参加メンバーに、自己主張が強すぎて人の話を聞けない子どもと、声が小さい上に話にまとまりがなく自己主張がままならない子どもが混在している場合、「相互的な言語コミュニケーション能力の向上」を長期目標とし、「発言者に注意を向ける/聞える声で発言する」を1学期の目標に、「話す態度・聞く態度の形成」を2学期の目標に、「話し合いをして意見をまとめる」を3学期の目標に設定する。

 最後の③では、学年や取り組む内容に応じ、指導プログラムを実施する。1つのエクササイズに10分~20分を費やし、1回のSST(45分~90分)の中で複数のエクササイズを行う。具体的には、教示(エクササイズの行い方やルールの説明)→モデリング(お手本となる振る舞いを指導者が見せる)→リハーサル(子どもが訓練を行う)→フィードバック(子どもの行動の賞賛や、うまくいかなかった部分についての肯定的な修正)の順番でSSTは実施される。

 以上がSSTの流れであるが、SSTの最終到達点は般化(SSTで学んだスキルを実生活で使えるようになること)である。そのため、般化を促すために、SSTで子どもに指導しているスキルを保護者や担任に伝えて、子どもが実生活でスキルを発揮できるように協力をお願いすることが肝要である。

2.重度重複障害、重症心身症児の定義と実態把握、コミュニケーション支援方法について、以下より述べる。

 はじめに、重度重複障害と重症心身症児の定義についてであるが、前者は「2つ以上の障害をもち、かつ、知的障害や問題行動の程度が著しく重度で、常時介護を必要とする障害児」を指し、後者は「重度の知的障害及び重度の肢体不自由が重複している児童」を指す。どちらも重複障害に該当し、障害の程度が重いことから、重度重複障害に含まれる。

 重度重複障害児のコミュニケーション支援を行うには、指導・支援の手掛かりを得ることを目的にした実態把握が重要である。子どもの全体像をあるがままに見つめて受け止めていく姿勢のもと、①情報収集(保護者・家族・医師・療法士等から情報を収集するとともに、自由な雰囲気の中で児童から本音を引き出す)と、②生育歴等の整理(胎生期中の母体の健康状態や分娩時の健康状態等の出生時の状況、乳児期初期の発達状況、既往歴やてんかんの有無等の病歴・障害の状況、治療機関や医学的な諸検査の結果等の治療・相談の経過、指導や助言を受けた病院・診療所等の指導・リハビリの経過、睡眠や食事や排泄等の日常生活の実態の把握)に励む必要がある。また、発達検査及び行動評価表の利用と、行動観察の2つは、子どもの行動の把握に有用である。前者は、子どもの一面を捉えたものにすぎず、かつ、検査者により結果が異なる可能性があるが、子どもの発達の概括的な把握に最適である。後者は、社会・集団生活の基盤となる人間の行動の基本的要素(健康、心理、感覚、運動、コミュニケーション)を念頭に、顔色の様子、気持ちの安定度、見聞きする能力、手足の動き、対人関係や言葉のやり取りを観察することである。

 コミュニケーション支援は、上記の実態把握後に行う。初期の段階では、子どもの状態やニーズに即した仕方で外界の事物への関わりを促す。例えば、子どもに極度の緊張がある場合、外界への接触よりも、緊張の緩和を優先する。その上で、音刺激に対するわずかな振り向き等の、子どもによる自発的な行動の発現を捉えて、人の顔を見つめる・呼びかけに振り向く・人に抱かれて笑顔を示す等の目標を設定し、関わりを次第に広げる。聴覚・触覚・固有感覚・前庭感覚を、外界からの働き掛けにより程良く刺激することで、コミュニケーションの可能性を引き出し、これを促進していくのである。

参考・引用文献

大沼直樹著 『重度・重複障害のある子どもの理解と支援』 明治図書、2015年

捕捉

このレポートは要約型レポートです。

要約型レポートの書き方については、下記が参考になります。

SSTについて、添削者の島田先生は、講評で次のような情報を伝えてくれています。

SSTに関する近年の考え方として、全てを訓練目標にするのではなく、特に思春期以降は将来の地域での自立に必要最小限の「ライフスキル」に限定すべきで、他は周囲の理解を含めた環境調整を工夫すべきとの考えが出てきています。ICFの観点からも正しい発想と思います。

by 島田

この考え方を私は、「子どもに全ての場面でSSTを課して子どもを疲弊させてしまってはいけない」という戒めとして理解しました。

何から何まで訓練対象にすると、息が詰まってしまうと思います。

例えば、小学校(小学部)であれば、「朝の挨拶」や「帰りの挨拶」や「物の貸し借り」や「職員室への出入り」などの特定の場面をSSTの対象とし、他の場面では子どもがリラックスして行動できるようにする。

という配慮が必要、ということだと私は捉えています。