PL3030_肢体不自由者の指導法_2単位目



 重複障害のある肢体不自由者の児童生徒の指導(自立活動の指導、認知やコミュニケーション能力の発達を促す指導、各教科の指導、進路指導等)を適切に行うにあたっては、次の3点を重視することが重要である。①児童生徒の実態の把握。②児童生徒の自発性を促す接し方。③現在起きていることを児童生徒に分かりやすく示すこと。

 上記3点について、以下に詳細を述べる。

 まず、①の「児童生徒の実態の把握」についてであるが、これは重複障害の有無や、肢体不自由者であるか否かに関わらず、教育に携わる者にとっては必須の留意点である。実態把握をする場合には、「教育的、心理的、医学的な側面からの情報を収集するだけでなく、保護者やその他関連機関等からの情報を得るとともに、実際に児童生徒とかかわる中で行動観察をしていく」ことが必要である。特に、重度・重複障害児を指導するのであれば、次の4点が重要になってくる。①医学的情報や所見。②感覚機能の評価。③発達的視点に立った評価。④生活場面での様子の把握。

 はじめに、①の「医学的情報や所見」とは、例えば、脳障害が児童生徒に存在する場合、「障害の発生の原因がいつ、何によるか、そして、脳のどの部分に障害が及んでいるか等」の情報を指す。これらの情報は「感覚機能や知的機能のアセスメント」と「健康と安全への配慮」に役立てることができる。

 次に、②の「感覚機能の評価」についてであるが、これは、視覚や聴覚等の感覚機能を評価することである。この評価の結果を参照することで、教師は児童生徒に対する接し方を定めることができる。評価には、「眼科医、耳鼻科医、視能訓練士言語聴覚士」等との連携が必要である。

 次に、③「発達的視点に立った評価」とは、標準化された発達検査や知能検査等を重度・重複障害児に実施しても、「発達評価の客観性」が保てないため、「発達のプロセスに基づく評価の視点を明確にすること」が必要になるということを指す。ここでの「発達評価の客観性」が保てないという状態は、例えば、座位の保持困難という事実がある限り、標準化された発達検査や知能検査等では、この事実が運動発達の遅れとして把握されてしまうので、重度・重複障害児の全体的な発達に関する正確な指数が得られないことを指す。このことから、重度・重複障害児に対して発達評価を行う際には、何を評価したいのかを明確にし、評価したいものを評価できる手法・方法を適切に選択して使用する必要があるということである。

 最後に、④の「生活場面の様子の把握」についてであるが、これは、日常生活における児童生徒の「いつもの状態」を把握し、「いつもと違う状態」を察知できるようにすることを指す。体温や呼吸数等のバイタルサインはもちろんのこと、顔色や表情や行動の意味も把握しておき、児童生徒の状態の変化を察知できるようになることが重要である。

 以上、①の「児童生徒の実態の把握」の内容を概観してきた。次に、②の「児童生徒の自発性を促す接し方」について概観する。これは、次の4つの心掛けを意味する。①児童生徒に活動のペースを決めさせる(活動の主導権を児童生徒に持たせる)。②指導者は児童生徒の行動を受けてそれに応える(児童生徒の思いに沿った支援を行う)。③児童生徒の行動を待つ(障害の重い児童生徒の動き始めは遅いものと理解しておく)。④児童生徒に提案をする(児童生徒の活動が停滞した際に別の遊び方や行動を示す)。

 上記のような心掛けを行うことにより、重度・重複障害のある児童生徒の自発性を促すことが可能になる。

 最後に、③の「現在起きていることを児童生徒に分かりやすく示すこと」の詳細を述べる。これは、児童生徒が起こした行動に周囲の人がはっきりと応答することにより、児童生徒による外界への働き掛けを引き出すことを目的とする。

 そもそも、重度の肢体不自由者は、「周囲に働き掛ける手段が限られているため、自分の起こした行動が周囲の人に影響を及ぼし得ることを実感する経験が非常に少なくなる」ために、外界に対する興味・関心を失いがちである。この傾向は、自発性だけでなく、児童生徒の自己効力感や自己肯定感の育成を阻害する可能性がある。

 そのため、児童生徒による外界に対する行動が、外界の状況に確実に変化を及ぼしていることを、児童生徒が理解できるように、教師は簡潔に状況を説明できなければならない。

 以上、重複障害のある肢体不自由者の児童生徒の指導時に留意すべき点を述べてきた。上記の児童生徒に対して教師は、「①児童生徒の実態の把握。②児童生徒の自発性を促す接し方。③現在起きていることを児童生徒に分かりやすく示すこと。」の3点を念頭にして指導を行うべきである。

参考・引用文献

西川公司・川間健之助編著 『改訂版肢体不自由者の教育』 一般財団法人放送大学教育振興会、2015年、p.163‐164、p.161、p.166‐168

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